書評:J・スコット(佐藤仁監修、ほか翻訳)『ゾミア 脱国家の世界史』みすず書房、2013年。




J・スコット『ゾミア 脱国家の世界史』みすず書房、読了。ゾミア(大陸部東南アジア山岳地帯)の歩みとは文明から切り離された未開社会なのか。国家主義的ナラティブは山地民を野蛮と断ずるが、著者はNo。ゾミアこそ「脱国家」の共同体である。 

山地民の歴史とは確かに「国家形成」から取り残された歴史だが、それは二千年にわたり、奴隷・兵役・徴税・戦争という国家形成のプロジェクトの抑圧から積極的に脱出した試みであるという。国家管理の無益さを追及する著者ならでは焦点に瞠目する。

水田に拠点を置く権力が届きにくい山岳地。分散居住は水田国家の収奪を回避し、平等と自治が生命線となる共同体は首領権力を絶えず相対化する。ゾミアとは未開社会ではなく積極的な脱国家社会といえよう。著者は逃亡奴隷やロマにもその系譜を見る。

ランケまで戻る必要はないが、主権国家を自明とする歴史「物語」が野蛮と文明を規定し、権力の正当性を担保するから、徴税できない人々は野蛮人。本書で示される世界の自由民たちの息吹は、認識の更新、そして共同体再生へ有意義な示唆となろう。





ゾミア:みすず書房




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ゾミア―― 脱国家の世界史
ジェームズ・C・スコット
みすず書房
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