書評:吉見俊哉『アメリカの越え方 和子・俊輔・良行の抵抗と越境』弘文堂、2012年。

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吉見俊哉アメリカの越え方 和子・俊輔・良行の抵抗と越境』弘文堂、読了。東アジア史とは植民地支配に軸を置く「戦時」の歴史だから、米国の覇権(戦前日本も同じ)とのねじれと真正面から格闘するほかない。本書は、アメリカと関わった鶴見「和子・俊輔・良行の抵抗と越境」(副題)の軌跡を辿り未来を構想する。


成長期をアメリカで過ごし、常に内在的に対話を試みた鶴見家の三人の思考を追うことは、アメリカのヘゲモニーを対置するだけでなく、その前身と継続である日本そのものをも問い直すことになる。「アメリカを超える」ことこそアジアの未来を見通すこと。

アメリカの「力」は解放ではないし、温存する天皇制すら対抗する力たり得ないしゴメンだ。和子の近代日本を超える契機の探究は、学の確立への専念よりも、柳田国男を経て南方熊楠へ至り、良行の目は多様な人々の生きるアジアの海へ向かう。

戦中、戦後の連続性をいち早く自覚した俊輔は、帝国日本とアメリカの「支配」を絶えず相対化させてゆく。三人の鶴見の精神史を腑分けする本書は、私たちのアメリカ認識の薄っぺらさを実感させてくれる。良行は殆ど読んでいない。これを機会に手に取りたい。





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