書評:小森陽一『レイシズム』岩波書店、2006年。
小森陽一『レイシズム』岩波書店、読了。21世紀に入ってより強化されているレイシズム(人種差別主義)。本書は現代におけるレイシズムを自他の「差異」「優劣」をねつ造するメカニズムと捉え、差別意識の発生に言語システムが深く関わっていることを明らかにする。現在の差別と対峙する思考導く1冊。
著者は『エンシクロペディア・ウニヴェルサリス』(アルベール・メンミ執筆項目)に採用された人種差別主義の定義を導きの糸にしながら、差異が差別に転換するメカニズムの不当性(自己正当化と思考停止、不在の優越性への欲望)を概観する。
定義は次の通り〜
「人種差別とは、現実の、あるいは架空の差異に、一般的、決定的な価値づけをすることであり、この価値づけは、告発者が自分の攻撃を正当化するために、被害者を犠牲にして、自分の利益を行うものである」(エンシクロペディア・ウニヴェルサリス)。
異質なものとして「表象する」ということは「表象する」たえに使用している言語システムを共有する者たちの間で、「表象する」対象が「われわれ」とは「異」なっているということを、言語として定着する行為の実践が不可欠になる。
差別意識の発生には「言語システム」が果たす役割が不可欠。著者は言語獲得の構造から解き起こし、ジラール、赤坂憲雄の議論から暴力と排除のメカニズムの特色とその欺瞞を明らかにする。後半の永井荷風のテクスト分析はその経緯を補完する。現在手に取りたい一冊だ。