覚え書:「今週の本棚 仏教学者中村元 植木雅俊著」、『毎日新聞』2014年08月31日(日)付。

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今週の本棚
仏教学者 中村元
植木雅俊著
角川選書・1944円

 高名な仏教学者・インド哲学者の一生を、晩年の門弟という視点から描いたものである。
 中村元(はじめ)は博覧強記を絵に描いたような大学者で、サンスクリット語をはじめ、パーリ語チベット語、英語、フランス語、ドイツ語、ギリシア語に精通していた。類まれな語学の才能を生かして、仏教の経典やジャイナ教バラモン教およびチベット語の仏典を読破し、前人未踏の偉業を成し遂げた。東京帝大に提出した博士論文は原稿用紙にして六千枚、弟に手伝ってもらってリヤカーで運び込んだという伝説がある。後に四巻本として出版され、中村元の代表作の一つになっている。
 学問研究にとどまらず、若手研究者を物心両面でサポートするために、財団法人東方研究会、東方学院を設立した。自ら教壇に立ち、会社員、主婦、税理士、大学生など幅広い受講者を対象に講義を行った。著者も一九九一年から受講し、中村元からインド思想やサンスクリット語の手解きを受けた。教室での様子や、講義で語られたことなど、著書からはうかがい知れない人柄が生き生きと再現され、最晩年の恩師に寄せる愛情が行間に溢れている。(競)
    −−「今週の本棚 仏教学者中村元 植木雅俊著」、『毎日新聞』2014年08月31日(日)付。

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