覚え書:「書評:なぜ大国は衰退するのか グレン・ハバード&ティム・ケイン 著」、『東京新聞』2015年02月15日(日)付。
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なぜ大国は衰退するのか グレン・ハバード&ティム・ケイン 著
2015年2月15日
◆経済の不均衡が転換点に
[評者]松原隆一郎=東京大教授
大国の勃興と衰退はなぜ起きるのか。史書ではよく外敵の侵略や内紛による分裂など軍事や政治が理由とされるが、経済学の見方は異なる。大国崩壊の直接理由は軍事としても、それを支えるのは経済力とみなすのである。
そうした興亡論の嚆矢(こうし)はオルソンの『国家興亡論』(一九八二年)で、ケネディ『大国の興亡』(一九八七年)やアセモグル&ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか』(二○一二年)が続く。
その最新版である本書は、経済力を決定する市場規模や投資、技術革新は「制度」によって生命を吹き込まれるとみる。制度とは法の支配や司法の独立、財産権や社会規範などで、そのおかげで天才の頭の中にあった発明が利益をもたらす技術に実用化された。大英帝国の繁栄は、名誉革命で制度が整備されたことに由来する。
さらに「経済力」をGDPと成長率、人口から具体的に算定、歴史の趨勢(すうせい)や他国と比較して、ローマ帝国や帝政中国(明)、オスマン帝国と大英帝国、日本から昨今のアメリカまで、衰退への転換時期を探っている。転換点は経済が不均衡に陥ると到来するという。インフレや財政赤字、過度の中央集権等だが、政治はしばしば不均衡を修復できない。そうした惰性がなぜ生じるのか、行動経済学で分析している。
制度と不均衡に着目したせいで、ケネディのように「軍事の肥大は即衰退」といった単純な議論にならず、説明できない部分が多い数量分析に頼ることもなく、包括性が魅力といえる。
ただし、日本については物足りない部分もある。集団主義はキャッチアップには向いていたが、縁故や規制がここ二十年は逆に足かせとなり、革新的な起業を阻み、赤字も累積して衰退待ったなしとする。しかし「大店舗を持つ小売業者の登場を妨害している」と断言されると、大型ショッピングモールのみ目立つ地方都市の実態を知らないのかと思える。むしろ日本で起業が夢になりにくい理由を知りたい。
(久保恵美子訳、日本経済新聞出版社・2916円)
Glenn Hubbard 米コロンビア大教員。
Tim Kane 米国のエコノミスト。
◆もう1冊
D・アセモグル&J・A・ロビンソン著『国家はなぜ衰退するのか』(上)(下)(鬼澤忍訳・早川書房)。国家衰退を促す政治経済制度を論証。
−−「書評:なぜ大国は衰退するのか グレン・ハバード&ティム・ケイン 著」、『東京新聞』2015年02月15日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015021502000178.html