覚え書:「文化の扉:モダニズム建築考 四角く無国籍、世界に衝撃」、『朝日新聞』2016年06月05日(日)付。

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文化の扉:モダニズム建築考 四角く無国籍、世界に衝撃
2016年6月5日

モダニズム建築考<グラフィック・宗田真悠>

 建築家ル・コルビュジエが手がけた計17の作品群が、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録される見通しになった。彼が表現しようとしたモダニズム近代主義)建築には、どんな特徴があるのだろうか。

 コルビュジエの作品群は、3度目の挑戦で世界遺産に「内定」した。推薦書づくりにかかわった東京理科大の山名善之教授は「技術的な発明はほとんど無いが、時代を見通す洞察力は天才的だった。『新しい建築とはこういうものだ』と、分かりやすく世界中に伝えたのが一番の功績」と話す。

 柱で建物の床を地面から離すピロティや、水平に連続する窓などの条件をまとめた「新しい建築の五つの要点(近代建築の5原則)」は代表的な主張だろう。「住宅は住む(ための)機械である」などキャッチーな言葉を使ったことでも知られる。自ら雑誌を発刊し、本もたくさん書いた。新しい建築についてのコルビュジエの言葉を世界中の読者が待っていた。

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 モダニズム建築を確立したのはコルビュジエ一人の功績ではない。グロピウス、ライト、ミース――。東大名誉教授で建築史家の藤森照信さんは、「鉄やガラス、コンクリートで建物を四角くつくるというのは、今では当たり前だけど20世紀初めに現れた時は、衝撃的だった」と話す。それ以前は、西洋なら教会と石やれんが積みの建物、日本なら寺社や、伝統家屋が立ち並ぶ町並み。建築とは、各国の歴史や文化、宗教的な要素が当たり前のように入りこむものだったのだ。

 モダニズム建築は、そうした要素を無くし、無国籍なものとして出現した。分厚い壁での間仕切りをやめ、柱を使い自由度が高い空間にする▽機械的にたくさんつくれる鉄やガラス、コンクリート素材を使う▽飾りを排除する▽科学技術(数学)に基づいて構造を考える――などが特徴だ。

 その大本について藤森さんは、建築家グロピウスを挙げる。「新しい素材を使い、幾何学的な構造を強力に進めた。でもその結果、皮肉にも普通の人が見ると、魅力の無い建物になってしまった」

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 一方、ライト、ミースらは、グロピウスの建築と共通する特徴を基本的に踏まえながらも、独自の美意識を作品で表現した。「四角い箱」の権化のように思われがちなコルビュジエですら、後年は地中海をイメージするような曲線的で自然石を使う建物をつくった。

 モダニズムの建築家の中で、コルビュジエはとりわけ日本で人気だ。その理由について山名さんは「彼の元で学んだ弟子たちが、東大や早稲田大など建築アカデミズムの中心で影響を及ぼしたり、師匠の思想を実践していったりしたことが大きい」。

 弟子の坂倉準三は、「建築は交通と共に成立する」というコルビュジエの思想を、新宿駅西口や渋谷駅前の都市計画で実践した。東京文化会館を手がけた前川國男門下からは、国立代々木競技場や都庁で世界を驚かせた丹下健三らが輩出し、日本のモダニズム建築を花開かせたのだった。(木村尚貴)

 

 ■随所に感じた心地よさ 女優・キャスター、菊川怜さん

 モダニズムの建築家の中でとりわけ印象的な人は、コルビュジエ。東大の建築学科に進んだ時、一番最初の課題だったのが、コルビュジエサヴォア邸の図面を写すというものでした。実際に描いてみると、量感のあるコンクリートが空中に浮いている感じにびっくりしました。

 コルビュジエは、コンクリートという材料を多用した人。私の卒論は、コンクリートの強度を上げるにはどうしたらよいか、がテーマだったので、そういう意味での縁もあるかもしれません。

 数年前、BS朝日の番組で、コルビュジエの建築物を巡る番組に出演しました。特に思い出深いのは、レマン湖畔の「小さな家」。大建築家が、両親のために建てたものですが、いかに心地よく幸せに暮らしてもらうかという思いが随所に見て取れました。

 もう一つは、ロンシャン礼拝堂。真っ白な外観に圧倒的な量感があった。でも、中に入るとステンドグラスの光のきらめきがすごくて……。祈りの場にふさわしいシンボリックな作品でした。

 コルビュジエの作品が世界遺産になるというのは、モダニズム建築の可能性を広げてくれるという意味で、とてもうれしいですね。

 

 <訪ねる> 東京・上野の国立西洋美術館の前には前川國男東京文化会館が並び、コルビュジエ師弟が手がけた作品が一緒に見られる。横浜市大成建設ギャルリー・タイセイでは、コルビュジエの業績をパネルや模型で紹介。ギャルリーの学芸員林美佐さんの『もっと知りたい ル・コルビュジエ』(東京美術)は入門書としてお薦めだ。

 ライト設計の建築は、東京・池袋に自由学園明日館(みょうにちかん)、兵庫県芦屋市に旧山邑家(やまむらけ)住宅が現存するほか、愛知県犬山市博物館明治村に旧帝国ホテルの中央玄関が保存されている。

 

 ◇「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「アイヌ文化」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉:モダニズム建築考 四角く無国籍、世界に衝撃」、『朝日新聞』2016年06月05日(日)付。

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