覚え書:「文化の扉:書道のあした 人口減、流派超える動きも」、『朝日新聞』2016年06月26日(日)付。

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文化の扉:書道のあした 人口減、流派超える動きも
2016年6月26日

書道のあした<グラフィック・宗田真悠>
 
 文字を書くことで、美を表現する「書道」。日本独自の書道文化をユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産にとの動きがある一方、書に興味を持ち、積極的に学ぼうとする人の数は減り続けている。

 漢字は中国で紀元前13世紀ごろに生まれた。私たちが普段使う「草書」「行書」「楷書」は中国でこの順に誕生し、3世紀ごろには3書体がそろった。日本への伝来は、すずりなどの出土から、現在では弥生時代終わりの2世紀までさかのぼると考えられている。

 文字を美しく正確に記す「書」が文化として定着するのは奈良時代以降だ。当初は中国で尊重された東晋王羲之(おうぎし)の書法が流行したが、やがて小野道風藤原佐理藤原行成らによって、日本的な感覚を取り込んだ和様の書が誕生。「かな」も発達し、様々な流派が誕生した。江戸時代には「御家(おいえ)流」といわれる実用の書が普及、武家の公文書などに使われた。

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 出光美術館学芸課長の笠嶋忠幸さんによると、級や段を認定する書道団体(会派)が各地に屹立(きつりつ)する「書壇」が完成をみたのは1970年代。80年代には明治時代以降に誕生した各会派が、毎日書道会読売書法会という2大団体のもとで再編される形で体制が整った。

 今、書家の原動力になっているのは展覧会だ。書を学ぶ人が団体に加わると主催の社中展や公募展に作品を出品し、入選を重ねることで、会友から評議員へというように派内での地位をあげていく。

 一方、昇級・昇段にはその都度、所属会派の試験を受けなければならない。月謝のほか紙代や墨代、受験料が必要で、展覧会に出品するならさらに手本料、指導料、出品料、表具代がかかることが多いため、師範になるまでに百万円以上費やすケースもざらだ。

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 美術新聞社の萱原晋社長によれば、独自の展覧会を開く会派は全国で2千前後。十数万人が書を学んでいるとみられるが、書道人口全体は減る一方だ。レジャー白書によると、2014年に書道に関わった人の数は480万人。92年の750万人と比べれば4割減である。学習者を囲い込み、派内での上昇意欲を糧にする書壇のシステムが時代に合わなくなっているとの指摘もある。

 これとは別に、会派を超えた団体展を推進する新しい動きも。「TOKYO 書 公募団体の今」(東京都美術館主催)は18会派が「漢字」「かな」、文字の約束事から離れた「前衛」などの6分野で他流勝負を挑む。会派を問わないトップ書家による「現代書道二十人展」も60回を迎えた。

 文字の美を追求する文化は世界にある。文字構成の特色を生かした「ハングル書道」や、クルアーンコーラン)の書写から誕生した「アラビア書道」は国内にも教室があり、数百人が学ぶ。カリグラフィーを学ぶNPO団体ジャパン・レターアーツ・フォーラムの三戸美奈子代表理事は「文字を美しく書こうとするのは人間の本性」と話す。書を親しみやすく身近な存在に――。文化として継承するには時代を生きる人々の努力が不可欠だ。(編集委員・宮代栄一)

 ■日本人の性格に合う文化 書道家涼風花(りょうふうか)さん

 書道を始めたのは小学校2年生の時です。祖母に「お小遣いをあげるから」と言われて塾に通い始めたのですが、いつの間にか魅力にはまってしまいました。現在は書に関する本を執筆したり、大学で美文字講座の講師をしたり、イベントなどで書の魅力を伝える仕事をしています。

 私は書の楽しさとはそれを通じて自分が成長できたり、芯を持った人間に近づいたりできるということではないかと思います。

 お手本に習って書くのを習字と言います。書道では正しく書くだけでなく精神的にも自分を磨くことが求められます。とはいえ、思い通りのイメージを表現するにはかなりの書き込みが必要です。

 書道は自らを鍛えると同時に、接する人の心も落ち着かせます。他人に気を配り、物事を極めようとする傾向が強い日本人の性格に合った文化ではないでしょうか。

 <訪ねる> 中国の漢字の作品を中心に、書の変遷を鑑賞できるのが東京・根岸の台東区書道博物館。現在は「中村不折 生誕150年記念展」を12月16日まで開催中。中国の書は9月9日から始まる後編の展示で見ることができる。

 <読む> 展覧会の情報などを中心に書壇のいまを伝えるのが月2回刊行の「書道美術新聞」(美術新聞社、東京都)。主な書家や大学・高校の書道専門教員、書道団体などを調べるには『年鑑・書道/2016』(萱原書房、東京都)が便利だ。

 ◆「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「御朱印」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉:書道のあした 人口減、流派超える動きも」、『朝日新聞』2016年06月26日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12428087.html



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