覚え書:「私の「貧乏物語」―これからの希望をみつけるために [編]岩波書店編集部 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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私の「貧乏物語」―これからの希望をみつけるために [編]岩波書店編集部
[文]森健(ジャーナリスト)  [掲載]2016年10月23日

■時代を浮かび上がらせる多様な経験

 経済学者河上肇が「貧乏物語」を大阪朝日新聞に書いてから今年で百年。各界の36人が自分の「貧乏物語」を記した。多様な世代の貧乏だ。
 1944年生まれの作家・出久根達郎はイナゴを食べていた少年時代を懐かしみ、40年生まれの政治家・古賀誠も幼少時、白米を食べたときの喜びを語る。2人の筆致には懐かしい郷愁さえ混じる。
 だが、貧乏は基本的に過酷だ。38年生まれのノンフィクション作家・沖藤典子は小学生時代、父、姉、母と続いて病気になり、「病と貧困の悪循環」に陥った。54年生まれの法哲学者・井上達夫は荒れた父の下、小学生で質屋に通い、教師にも侮蔑された体験を記した。怖さや憤りはその後の人生に影響している。
 相対的な貧しさが強まるのはバブル経済の後からだ。65年生まれのライター・ブレイディみかこは高校の頃、通学定期を買うためにアルバイトをすると「嘘(うそ)をつくな」と担任に怒られた。79年生まれの政治学者・栗原康は3年前まで年収が10万円で親の年金で暮らしていたと打ち明けた。
 豊かになった現在に近いほうが、精神的には厳しく感じるのは皮肉な話だ。多様な世代の“貧乏”経験がその時代を浮かび上がらせている。
    −−「私の「貧乏物語」―これからの希望をみつけるために [編]岩波書店編集部 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。

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