覚え書:「サザエさんをさがして 神話 歴史に何を学ぶのか」、『朝日新聞』2017年07月15日(土)付土曜版Be。

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サザエさんをさがして 神話 歴史に何を学ぶのか
2017年7月15日
 
写真・図版
1970年6月5日朝日新聞朝刊 (C)長谷川町子美術館
写真・図版
 サザエさんが「軍国主義」の再来を心配したのには理由がある。このマンガは1970(昭和45)年の掲載だが、その翌年から小学校では、新しい学習指導要領の指示により、社会科で神話学習が本格的に復活するのだ。

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 戦前、戦中の学校では、神話は重要な教材だった。神話は史実とされ、建国神話を学んだ子どもたちは、日本を「神の国」と信じた。そして、現人神(あらひとがみ)である天皇のために命をかけて戦うよう、教育勅語などでたたき込まれた。

 敗戦で神話教育は否定された。よみがえることになったのは、同じく戦後に廃止された「紀元節」が、「建国記念の日」として66(昭和41)年の法改正と政令制定で復活したことと無縁ではない。

 日本がサンフランシスコ講和条約に調印する51(昭和26)年、国会で「国民の愛国心を高揚する方法」を問われた吉田茂首相は「紀元節を回復したい」と答弁。これを機に「紀元節」の復活運動は勢いを得る。朝鮮戦争を背景に、新憲法で戦争を放棄したはずの日本で、前年に警察予備隊(後の自衛隊)が発足するなど、時代は「逆コース」をたどり始めていた。

 「紀元節」は、神武天皇の即位日にちなむ祝日だった。復活を願う人々は、建国記念の日を同じ2月11日とすることにこだわっていた。この日付は科学的な裏付けを欠き、「史実」ではない。三笠宮崇仁親王や、戦後初の日本史の検定教科書を執筆した和歌森太郎ら、右翼の圧力にもひるまず反対する学者もいて、紀元節復活は簡単には実現しなかった。歴史教育に詳しい上越教育大の梅野正信教授(61)は「神話と史実を混同して道を誤った過去への、反省に立った反対でした」と話す。

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 こうした流れの中、71(昭和46)年度実施の小学校学習指導要領は、社会科で「神話の教育的活用」を指示。文部省(当時)は、新指導要領の教員講習会で「子どもが神話と史実を混同しても構わない」と説明して物議をかもした(後に撤回)。国が神話教育の復活に傾いたのは、史実の裏付けのない「建国記念の日」に「支え」を与える意図もあったのではないか。長谷川町子さんがサザエさんで描いた懸念は、そんな「時代の空気」をかぎ取った表現だった。

 「時代の空気」は、今またキナ臭さを増している。子どもたちに教育勅語を唱和させる幼稚園が話題となる。安倍首相は期限を示して改憲を目指す。また安倍内閣は3月、教育勅語に関する野党の質問主意書に対して、「教育の唯一の根本とするような指導は不適切」としつつも「憲法教育基本法に反しない形で教材として用いることまでは否定しない」との答弁書閣議決定した。

 これまで「教科外の活動」だった「道徳」が、来年度「特別の教科」に格上げされるのを前にしてのこの判断は、何を意図しているのだろうか。「そもそも教育勅語の内容は、憲法教育基本法とは相いれないものだ」と語る歴史教育者協議会の大野一夫さん(69)は「負の歴史を学ぶ教材として使う以外に、いったいどんな活用の仕方があるというのだろう。政府は愛国教育につなげたいと考えているとしか思えない」と、疑う。

 くしくも来年は「明治150年」。政府は「明治の精神に学び、更に飛躍する国へ」とうたう。この間の歴史に何を学ぶのか。それが問題だ。(沢田歩)

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    −−「サザエさんをさがして 神話 歴史に何を学ぶのか」、『朝日新聞』2017年07月15日(土)付土曜版Be。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S13033971.html





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