日記:ワタミとマックは何が違うのか


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 私はこれまで約20年間、数々の選挙を追い続けてきた。そんな中で目にした一つの「不公平」な例を挙げたい。
 2011年4月の東京都知事選に立候補した候補者の一人に、現在は参議院議員を務めている渡邉美樹がいる。渡邉は都知事選に立候補を表明した時にはワタミフードサービスの会長を務めていたが、選挙に立候補するのは初めてのビジネスマンだった。
 渡邉はその選挙戦において、たびたびマザー・テレサの言とされる次の言葉を引用して有権者に訴えた。
 「愛の反対は憎しみではない。無関心だ」
 渡邉は「無関心NO」というシールまで作り、選挙運動を展開した。
 当時、渡邉を推していたのは都議会民主党だった。この時の選挙戦で、渡邉は組織からの推薦があるために各メディアから「主要候補」として扱われた。
 一方、同じくビジネスマンで政治経験がなく、同じように有権者の無関心を問題視しているマックは、メディアからほとんど無視された。
 この違いは何だろう。力を持つ誰かの推薦がないことは無視する理由になるのだろうか。無名なことは無視する理由になるのだろうか。
 この時の都知事選で落選した渡邉は、のちに民主党ではなく自民党から参議院議員選挙比例区)に立候補し、同党の当選者18人中16番目で議席を獲得した。言うまでもなく、自民党民主党は主義主張が違う。時間の経過を経て考えが変わるのは、人間なので仕方がない面もある。だから、関わりを持つ政党がかわったことはここでは問わない。それに対して、マックはずっと「スマイル党総裁」を名乗っている。どちらが政治家として、人間として、信頼に足るだろうか。
 私は、こうした差別的な扱いを受け、負けても負けても、選挙への情熱を維持し続けているマックに、こう聞いたことがある。
 「あなたは何を壊したいのか」
 普段はどんな質問にもギャグやユーモアを交えて答えるマックが、この時ばかりは大真面目な顔で答えた。
 「私が壊したいのは、体制、常識、コメントばかりして行動できない人。そのすべてを壊したい。政見放送も壊したい。だからNHKで流れる政見放送でスーパーマンのコスプレをやる。NHKは日本の保守的な部分、とんでもなく常識的な部分だ。しかも、NHKに出れば日本人はコロっと信用する。おれはNHKという権威に対する過度な信頼感も壊したい。何も考えずに信用してしまう日本人の無意識を壊したい。
 それを一旦壊したら、瓦礫の中から何かが生まれる。そこなんですよ、私の原点は」
 私はこの時、マック赤坂の本質に触れた気がした。
 しかし、ここに至るまでには長い取材の年月が必要だった。わずか2週間ほどの選挙運動でマックの本質に気づく人は少ないだろう。
 こうなる背景には日本の公職選挙法の問題がある。この法律は、候補者をじっくり見定めるための作りにはなっていないからだ。
    −−畠山理仁『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』集英社、2017年、114−116頁。

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