多くの日本人は、ヨーロッパやアメリカには人種差別があるけど、自分たちには人種差別の伝統がないと思っているから、非常に無防備にレイシズムが表に出てきてしまう


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姜 今回の「中国人犯罪者民族的DNA」発言(引用者註……、2001年5月8日付『産経新聞』掲載の石原慎太郎都知事のコラム、「こうした民族的DNAを表示するような犯罪が蔓延することでやがて日本社会全体の資質が変えられていく」と言及)は、「三国人」発言よりもはるかに悪質です。ところが、なぜか、そうした発言に対して、メディアは急速に鈍感になりつつある。
森巣 私が気になったのは、まさに、その点なんです。なぜ、石原発言は野放しのままなのか。ルペンやハイダーのような政治家を日本のメディアは極右と呼ぶならば、なぜ、石原慎太郎を極右と呼ばないのか? ルペンやハイダーでさえ、公共の場では石原のような発言はできないでしょう。冗談抜きで、「人種差別煽動・助長行為」として起訴され、本当に、刑務所の中でカンカン踊り(身体検査のため、すっ裸に剥かれ、両腕を頭上に挙げてばたばたと足踏みさせられること)をしなければならなくなります。これについては、いつかどこかで、徹底的に批判しなければいかんと思っているんですよ(「政治家『極右』と呼ぶ規準は何か」/『朝日新聞』二〇〇二年六月二日)。
(中略)
姜 そうですね(笑)。アフガニスタンをどうするのかとか、有事法制の是非をめぐる議論に日本中が巻き込まれている中で、たった四人の難民が、日本社会から拒絶され、ひっそりと強制退去させられてしまう。その矛盾は、一度みんなの眼前に提示されれば、誰にでもわかるはずなのに、メディアは取り上げようとしない。
森巣 なぜなんでしょう。
姜 さきほどの石原慎太郎の発言に関しても、それをしかめっ面で聞いたり、嘲笑する人もいますが、総体として容認してしまう日本社会の価値観そのものに、特に、アジア系の人に対するレイシズム的感情が、形を変えて残っているのだと思います。しかも、多くの日本人は、ヨーロッパやアメリカには人種差別があるけど、自分たちには人種差別の伝統がないと思っているから、非常に無防備にレイシズムが表に出てきてしまう。
森巣 ただ、私は、もう三〇年近くを海外で過ごしていますが、今でも一年に二回ほど、春と秋に、日本を「訪ねる」わけです。そうすると、もう、普段接する機会がないだけに、日本社会やメディアの感覚麻痺が急速に進行していることが、否応なくわかる。レイシズムへの無防備性はもともとあったことかもしれませんが、その感覚麻痺が近年、ますます深化しているような印象を受けるのです。
姜 おっしゃるとおりです。
森巣 セキュリティや国益を声高に語りながら、日本人以外の人間を、あまりにも安直に、視界の外に追いやろうとする空気そのものに対しては、非常に危険なものを感じます。誰もが、その空気に慣れすぎてしまっているのではないか、と。
    −−姜尚中森巣博ナショナリズムの克服』集英社新書、2002年、24−26頁。

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東京都の「人権ポスター」が“炎上”していたので紹介しておきます。

①「言葉、宗教、生活習慣などの違いから、様々な人権問題が発生しています」とポスターでは表記されておりますが、この表現はあたかも「違い」が問題を生んでいるかのような印象を与えますよね、その点でアウト。

「違い」を理由として差別するのは差別する当事者の問題なのに、「違い」が問題であるような表現をするという愚劣さ。

②もうひとつ加えれば、これは東京都のトップである石原慎太郎(1932−)東京都知事閣下に対して掲示すべきかと。

「多くの日本人は、ヨーロッパやアメリカには人種差別があるけど、自分たちには人種差別の伝統がないと思っているから、非常に無防備にレイシズムが表に出てきてしまう」。
だから敏感にならなきゃいけないのに……。







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