覚え書:「異論反論 孤立死、孤独死が増えています 『意思表示カード』で防げ=城戸久枝」、『毎日新聞』2012年3月28(水)付。


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異論反論 孤立死孤独死が増えています
「意思表示カード」で防げ
寄稿 城戸久枝

 この1年、「絆」という言葉が飛び交い、さまざまな場で人とのつながりの大切さが語られた。しかし、一方で、孤立死孤独死など、人間関係の希薄さによる悲劇が目立つようになった。
 東京都立川市で2件続いた家族単位での孤立死で、自治会長が涙ながらに悔やんでいる姿が印象的であった。
 孤立死孤独死が報じられると、「周囲の人間がもっと注意していたら……」という声がよく上がる。しかし、実際のところ、周囲がどこまで踏み込むべきなのかの判断は難しい。
 私にも似たような経験がある。以前住んでいたマンションの下の階で、1人暮らしのおばあさんが亡くなった。数日間、姿をみかけなかったが、異変には全く気付かなかった。マンション前に自治体の車が止まっていて、部屋からの喪服の女性が出てきたとき、初めて一人で亡くなったのだという事実を知らされた。もし早く気付いてあげていれば……そう思っても、結局、自分に何ができたのかわからない。やるせない気持ちだけが重くのしかかった。
 東京都によると、1世帯当たりの平均人数が1・99人となり、1957年の調査開始以来初めて2人を下回ったそうだ。都は「元々単身の若者が多い上、独居高齢者が増加している」と分析しているという(毎日新聞東京本社版16日朝刊)。今後、さらに1人暮らしの高齢者は増えていくだろう。私たちは孤立死孤独死と、どのように向き合うべきなのだろうか?
 昔はご近所さんや地域とのつながりが強かった。ただ、他人にプライバシーにまで入り込まれることを拒んだ結果が今につながっているのだともいえる。さまざまなライフスタイルの一つとして、自ら一人を選んだ人もいる。変化する時代に即した対応が必要だ。

個人情報保護問題が「見守り」のネックに
 個人レベルでできることには限界がある。自治体だけに任せるとなかなか行き届かない。自主的にさまざまな取り組みをしている自治会もあるが、結局は置かれた環境により差が出てきてしまう。自治体主導で、地域社会全体を巻き込み、情報を共有して、「見守り」を続けるシステムを構築できないか。孤立していても、公共料金の支払いや新聞、スーパーやコンビニ、宅配便など、人は必ず社会のどこかとつながっている。
 ただ、ネックになるは個人情報保護の問題だ。たとえば、意思表示カードのようなものを作るのはどうか。特に1人暮らしの高齢者や老老介護の家族など、孤立しがちな世帯には、事前に長期にわたって連絡がとれなかった際の対処方法を示してもらう。意思表示をしていない場合は緊急時、自治体などに立ち入る権限を与える。最善の策ではないが、異変に気付きながらも対応が遅れ、最悪の結果を招くことだけは防げるはずだ。

きど・ひさえ ノンフィクションライター。1976年愛媛県生まれ。1歳の息子が4月から保育園に通うことになり、「入園準備に追われています」。
    −−「異論反論 孤立死孤独死が増えています 『意思表示カード』で防げ=城戸久枝」、『毎日新聞』2012年3月28(水)付。

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