覚え書:「書評:『アホウドリと「帝国」日本の拡大』 平岡昭利著」、『読売新聞』2013年01月13日(日)付。
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書評:『アホウドリと「帝国」日本の拡大』 平岡昭利著
評・星野博美(ノンフィクション作家・写真家)
明石書店 6000円
羽毛目当ての南進
南洋の絶海を優雅に舞う姿から、昔は信天翁、沖の太夫などと呼ばれた巨大な鳥、アホウドリ。
阿呆鳥、馬鹿鳥などという不名誉な名前で呼ばれるようになったのは、南海の無人島に生息するが故に人を恐れず、簡単に撲殺されたからだ。美しい羽毛と人を恐れない気品が、彼らを絶滅寸前まで追いこむことになった。
本書は、明治期の日本人の南洋進出の動機にアホウドリの存在があり、この「バード・ラッシュ」に国家の領土拡大の意図が便乗していくという、「アホウドリ史観」を提唱する。
探検や冒険には富の独占や強烈な自己顕示欲がつきものだが、まさか帝国日本の南進にアホウドリが関わっていたとは! 驚きから頁をめくる手が止まらなくなった。
最初は巨利に目がくらんだ山師的な商人から始まった。出稼ぎ者を引き連れて無人島へ行き、アホウドリを殺しては羽毛を海外へ送る。しかしアホウドリは成鳥に育つまで時間がかかり、すぐに激減してしまう。その島を見限って次の島の探索へ移る。労働者の置き去りも頻繁だった。1905年頃からは、目的が激減した鳥類から、肥料となるグアノ(鳥糞 ちょうふん)、軍需資源となるリン鉱へと変わり、やがては国家の武力進出を招いていく。
著者を最初にこのテーマに惹きつけたのは40年前、南大東島で感じた疑問がきっかけだったという。八丈島の人たちが断崖絶壁を登って上陸し、開拓したといわれる島で、誰に尋ねても農業のために移住したとしか答えない。「農業のために1200キロも離れた八丈島からやって来て、この断崖絶壁を登るか?」すべてはこの疑問から始まった。この違和感が、大袈裟にいえば著者の研究人生を決定づけてしまったのだ。
島嶼を丹念に歩き続けることでしか見開かれない時空間の広さ。それを堪能してほしい。学術書でありながらノンフィクションでもあるような、実に魅力的な執念の一冊である。
◇ひらおか・あきとし=1949年、広島県生まれ。下関市立大教授。専門は人文地理学・島嶼地域研究。
−−「書評:『アホウドリと「帝国」日本の拡大』 平岡昭利著」、『読売新聞』2013年01月13日(日)付。
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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130116-OYT8T00390.htm