覚え書:「今週の本棚・本と人:『パレスチナ問題とキリスト教』 著者・村山盛忠さん」、『毎日新聞』2013年01月20日(日)付。




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今週の本棚・本と人:『パレスチナ問題とキリスト教』 著者・村山盛忠さん
 (ぷねうま舎・1995円)

 ◇身に刺さったトゲに向き合って−−村山盛忠(むらやま・もりただ)さん

 昨年11月に国連のオブザーバー国家となったパレスチナ、反発するイスラエル−−。中東情勢は新たな局面にある。本書は、著者が第三者、傍観者の立場と訣別(けつべつ)し、キリスト者である自らの足もとの問題として、果てしない紛争を追究した記録だ。

 1964年、プロテスタント牧師としてエジプトのコプト福音教会に赴き、3年後、第3次中東戦争に巻き込まれた。「戦争をアラブ側から見る必要を感じて帰国したものの、当時の日本でPLO(パレスチナ解放機構)はテロ組織と見なされ、その名を口にするのさえ憚(はばか)られました」

 ユダヤ教の聖書を旧約聖書とするキリスト者には、ホロコーストをはじめ迫害の歴史からの「ユダヤ人の解放」が命題であり、パレスチナに関わるのはためらわれた。が、75年のキリスト者の世界会合で「イエスが育ったナザレの牧師から『一度でもパレスチナキリスト者に対話を求めてきたのか』と問われた」ことが迷いを取り去った。

 ユダヤ教徒がすなわちユダヤ人であるのに対し、パレスチナ人はイスラム教徒のみではない。少数派キリスト教徒がいまも存在する事実は「身に刺さったトゲ」となり、「キリスト者自身の問題として扱わなければ」という信念が生まれた。大阪にパレスチナ支援組織を設立し、さらに西(欧州)のキリスト教が東(中東)を切り離す歴史的経緯を深く掘り下げた。

 例えばコプトを異端とした5世紀のカルケドン公会議。「教理上の対立とされるが、ローマ皇帝が異民族統治の都合で異端を政治利用したもの」と断じる。

 歴史の理解の先に現代のパレスチナ問題が浮かび上がる。東と分かれ、西に成立したキリスト教世界がユダヤ人を迫害し、「欧州が償うべき問題をアラブ世界に持ち込んでしまった」。

 いま、ユダヤ人入植地を守る高く分厚い壁によって、パレスチナの地は刻まれている。「差別の構造を支えているのは、やはり欧米由来のキリスト教ではないか」。自己批判につながりかねない問いであってもなお、真実に向き合う。「本にまとめたことは私の歩みそのものです」

 錯綜(さくそう)した中東問題に対して、確固たる一つの視座を与えてくれる一冊である。<文・井上卓弥、写真・西本勝>
    −−「今週の本棚・本と人:『パレスチナ問題とキリスト教』 著者・村山盛忠さん」、『毎日新聞』2013年01月20日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130120ddm015070156000c.html








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パレスチナ問題とキリスト教
村山 盛忠
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