覚え書:「『ナショナリズムとの連動懸念』 集団的自衛権でナイ氏」、「(集団的自衛権 行方を問う)日本が進むべき道は 賛否や論点を聞く」、『朝日新聞』2014年03月16日(日)付。

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ナショナリズムとの連動懸念」 集団的自衛権でナイ氏
ワシントン=大島隆2014年3月16日03時12分


ジョセフ・ナイハーバード大学教授
 オバマ米政権に近い米国の知日派の代表格として知られる米国のジョセフ・ナイハーバード大学教授(元米国防次官補)が朝日新聞のインタビュー取材に応じた。安倍政権が進める集団的自衛権を巡る憲法解釈の見直しに向けた動きについて、安倍晋三首相の靖国神社参拝などを例示して「政策には反対しないが、ナショナリズムのパッケージで包装することに反対している」と語った。

憲法解釈の変更「正当だが」 ナイ氏に聞く
 近隣諸国の理解を得ることを一層困難にしているとして、政権の取り組み方に懸念を示したものだ。

 集団的自衛権をめぐる日本の憲法解釈について、ナイ氏は「戦後の憲法で非常に限定的に解釈してきた。これをより広く解釈することは正当なこと」と語り、解釈見直しで行使を容認することを基本的に支持する立場を示した。

 一方で、ナイ氏は首相の靖国参拝のほか、首相周辺が村山談話河野談話の見直しに関する発言を続けてきたことを取り上げ、「日本が軍国主義に向かうのではないかと中国や韓国を不安にさせている」と指摘。「米国内でも、日本で強いナショナリズムが台頭しているのではないかとの懸念が出ている」と述べた。

 その上で、ナイ氏は「日本の集団的自衛権行使はナショナリズムで包装さえしなければ、東アジアの安定に積極的に貢献しうる」と強調。現在のやり方は近隣諸国の反発を強めることになりかねないとして「良い政策を悪い包装で包むことになる」と注文をつけた。

 国際政治学者のナイ氏は、クリントン政権時代に米国家情報会議議長や国防次官補を歴任。「ナイ・イニシアチブ」と呼ばれた日米安保の再定義を推進するなど、対日政策に深く関わってきた。(ワシントン=大島隆)
    −−「『ナショナリズムとの連動懸念』 集団的自衛権でナイ氏」、『朝日新聞』2014年03月16日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/ASG3C6QSQG3CUTFK014.html



集団的自衛権 行方を問う)日本が進むべき道は 賛否や論点を聞く
2014年3月16日


 安倍政権はいま、憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を認める準備を進めている。その意味や論点をキーパーソンに聞いた。▼1面参照

 (この企画は随時掲載します)

 ■懸念引き起こさぬ政策が必要 ジョセフ・ナイハーバード大教授

 日本は戦後の憲法で、集団的自衛権の行使を非常に限定的に解釈してきた。これをより広く解釈することは正当なことだ。典型例は日本近海で北朝鮮が米艦船を攻撃し、海上自衛隊の艦船が近くにいる場合などだろう。あまりに狭い憲法解釈によってしまうと、日米が協力して対処する能力が妨げられる恐れがある。

 しかし、日本政府のいくつかの行動は、日本が軍国主義に向かうのではないかと中国や韓国を不安にさせている。例えば、安倍晋三首相の靖国神社参拝や首相周辺の村山談話河野談話見直しに関する発言だ。

 米国内でも、日本で強いナショナリズムが台頭しているのではないかという懸念が出ている。個人的には日本の大部分の意見は穏当なもので、軍国主義的なものではないと思う。

 ただ、米政府の言葉を借りれば、自らの政策が近隣国との関係に与える影響について、安倍首相がもっと注意を払わないことには失望している。私は政策に反対しているのではない。ただ、ナショナリズムのパッケージで包装することに反対しているのだ。

 日本の集団的自衛権行使はナショナリズムで包装さえしなければ、東アジアの安定に積極的な貢献を果たしうる。しかし、首相の靖国参拝河野談話村山談話見直しの兆候が合わさると、良い政策を悪い包装で包むことになる。

 日本は「どうやって近隣諸国の懸念を引き起こさずに理にかなった政策変更を行うか」と自問すべきだ。日本が平和を愛する国であり、軍国主義の国ではないことを示すための一歩を踏み出すべきだろう。

 私たちは一人の政治家や一つの政党だけでなく、日本全体を見る必要がある。同盟国の指導者のやったことに失望すれば、我々は率直に失望を表明すべきだ。しかし、それが日本の人々や日本という国との同盟関係を失うことを意味するわけではない。

 平和維持活動(PKO)の拡大については、平和憲法の精神にも合致していると思う。世界は安全保障の公共財を提供できる主要国を必要としている。

 中国との関係で米国が望むのは米中、日米、日中の「良い関係のトライアングル」だ。米国は中国に冷戦時代のような「封じ込め」をやるつもりはない。ただし、中国が東シナ海南シナ海で隣国をいじめるようなことは許さない。

 日韓関係について、我々が直面する課題に目を向けるべきだ。北朝鮮は深刻な脅威で予測不能だ。日韓が協力できず、合同訓練もできないことは3カ国すべてにとって危険なことだ。

 (聞き手・大島隆=ワシントン)



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 Joseph Nye 1937年生まれ。国際政治学者。クリントン政権で国防次官補として「ナイ・イニシアチブ」と呼ばれる日米安保再定義を主導した。

 ■安保環境考えれば行使容認を 北岡伸一・安保法制懇座長代理

 現在の政府見解は、集団的自衛権について「国際法上は持っているが、憲法上の制約で行使できない」としている。日本を守るための必要最小限度の自衛力を持てるが、集団的自衛権はその範囲を超えるとの解釈だが、それはおかしい。必要最小限度とはどの程度か、安全保障環境が刻々と変わる中で、あらかじめ法的概念だけで定義できるはずがないからだ。

 国連憲章51条は、どの国も個別的、集団的自衛権を持っているとする。自力で守れない局面では、集団的自衛権が必要になるからだ。日本は圧倒的な力を持つ米国の同盟国だったから、これまでは気にしなくて済んでいたのが実態だ。

 内閣法制局は、憲法の解釈変更は許されないとの立場をとってきたが、これもおかしい。吉田茂首相は戦争直後、憲法9条を「あらゆる戦力を持てない」と解釈し、自衛戦争も否定していた。だが、朝鮮戦争などの国際情勢や米国の要請を受けて、必要最小限度の自衛力は持てるという風に変わった。この時の解釈変更に比べれば、集団的自衛権の行使を認める今回の解釈変更は小さいと言える。

 中国は軍拡を進め、北朝鮮のミサイルの脅威も高まっている。この10年間で中国の軍事予算は4倍になった。政府見解に合わせ、自衛力を「必要最小限度の範囲」にとどめていれば、こうした変化に対応できないだろう。集団的自衛権の行使を認め、米国、フィリピン、ベトナム、オーストラリアといった友好国との関係を強化すれば、脅威に対する抑止力が生まれ、日本が攻撃される可能性は減る。

 安倍晋三首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)が今春に出す予定の報告書では、集団的自衛権の行使解禁を求める。ただ行使にあたっては、密接な関係がある国が攻撃を受け、放置すれば日本の安全に大きな影響があり、攻撃された国から明らかな要請があった場合に限ると定義する。

 首相が総合的に判断して行使を決めた際には、その前後に国会承認を受けることも課す。事前承認が望ましいが、内閣による行使の判断が適切だったかどうかは、事後でも国会の場で追及することができる。

 私は憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使を認めるべきだと考えるが、実際の行使は極めて慎重であるべきだとの立場だ。仮に米国が日本に集団的自衛権の行使を要請したとしても、時の政権が国民の納得を得られないと判断すれば、やらないだろう。判断を誤れば、国民の支持は得られない。「米国の戦争に巻き込まれる」と言う人もいるが、国民の世論が最大の歯止めになる。

 (聞き手・蔵前勝久)

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 きたおかしんいち 48年生まれ。東京大卒。東京大教授などを経て現在は国際大学長。専門は日本政治外交史。民主党政権で日米密約の有識者委員会座長。著書に「日本政治の崩壊」など。

 ■戦争に巻き込まれる恐れ拡大 豊下楢彦・元関西学院大教授

 集団的自衛権の行使容認を訴える安倍晋三首相が挙げる具体例には、現実性がない。米艦船が攻撃されたり、米国に弾道ミサイルが撃ち込まれたりなどと、米国への攻撃を前提にしているが、どの国がいま米国を攻撃するのか。

 中国は考えにくい。中国の最優先課題は米国と「新たな大国関係」を築くことだ。北朝鮮は挑発を繰り返しているが、米国と交渉したいのが本音だ。北朝鮮が米国をミサイル攻撃するような理性を欠いた国なら、まず日本を攻撃するだろう。日本海側の原発を狙う最悪のシナリオを想定するなら、原発を守る迎撃ミサイルの配備を最優先すべきで、原発の再稼働は論外だ。

 集団的自衛権の行使では歯止めが利くかが最大の問題だ。2003年のイラク戦争では、小泉純一郎首相は特別法をつくって自衛隊を派遣したが、この時の論理は、北朝鮮が日本を攻撃した時に守ってくれるのは米国以外にない、だから日本が支援するのは当たり前というものだった。

 この理屈に立てば、集団的自衛権が認められると、米国の派遣要請に基づき、地球の裏側まで行くことも可能になる。

 安保法制懇は、集団的自衛権の行使の対象として、米国に加え東南アジアなどの諸国も挙げている。中国への抑止力になるとの考えだが、これも危ない。

 南シナ海の島々をめぐって中国がベトナムを攻撃し、ベトナムが日本に軍事支援を要請したとする。日本がベトナムに武器や弾薬を送れば、日本は中国の敵国になる。日本が直接攻撃されていなくても、集団的自衛権の行使で戦争に巻き込まれる可能性が増えるだろう。

 日本がいま直面する最大の懸案は、尖閣諸島をめぐり中国が攻めてくるかであり、これは日本の個別的自衛権の問題だ。その際、米国が日本に対して本当に集団的自衛権を行使してくれるかが焦点になっている。

 米国は、安倍政権に警戒心を強めている。1次政権で唱えた「戦後レジームからの脱却」には、吉田茂首相が敷いた「軽武装・経済優先路線」からの脱却だけでなく、「東京裁判史観」からの脱却というメッセージが組み込まれている。それは首相の靖国参拝や側近の発言からもわかる。米国が築いた戦後秩序への挑戦を意味し、論理的には反米につながるからこそ、米国も懸念を深めている。

 軍拡競争が加速している国際情勢にあって、憲法9条のもとで専守防衛に徹してきた日本の立ち位置は、むしろ重要性を増している。解釈変更で集団的自衛権を行使できるようになれば、9条は意味を失って空文化し、安倍首相がめざす憲法改正も不要になるだろう。

 (聞き手・蔵前勝久)

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 とよしたならひこ 45年生まれ。京都大卒。元関西学院大教授。専門は国際政治論、外交史。著書に「集団的自衛権とは何か」「『尖閣問題』とは何か」など。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11032007.html



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