日記:共同体生成になぜ文化や芸術活動が必要なのか?

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女川の獅子舞
 人類は共同体を維持するために、文化、芸術活動を、どうしても必要としてきた。それはなぜか? たとえば、今回の震災においても、宮城県女川町から以下のような報告があった。
 女川は、入り江が入り組んでいることもあり、最大四十三メートルの津波に襲われ、今回の震災でもっとも被害の激しい自治体となった。家屋の八割が流出し、人口の八・七%がなくなられた。
 神山梓さんは、東北大学の大学院進学と共に、研究目的のために女川町に移住、今回の震災ではボランティアからそのまま町の復興推進課員となり、女川の地域再生のために奔走してきた。彼女は、文化庁ヒアリングに答えて、以下のように述べている。

 女川町の集落にはそれぞれ「獅子振り」という獅子舞の一種が伝わっている。竹浦集落は、地域の伝統文化である獅子振りをいち早く復興させ、集落の人々が、獅子振りを通じて、励まし合い、団結できたことが、自立的な復興の取組に繋がったと思う。

 女川町にある十五の集落の中で、竹浦集落は、高台移転についてもっとも早く合意形成ができた。これは文化の力によるものと考えている。コミュニティをつなぐものは、これまで培ってきた文化の力とそれを支える人々の心。その心から発せられる復興こそ真の復興であり、本当のコミュニティの再構築だと思う。

 私は、二〇一二年の世界文明フォーラムで神山さんにお目にかかったが、実際に他の地域でも、獅子舞の復活が早い地域ほど、高台移転の合意形成が早く進む傾向が見られたという。
    −−−−平田オリザ『新しい広場をつくる 市民芸術概論綱要』岩波書店、2013年、16−17頁。

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共同体を再建するとき、そのひな形は殆どの場合、権力の側が用意し、私たちは自主的に選択している「つもり」で実はそのレールを走っているだけということが多い。

だとすれば、それに抵抗する形の自生の知と力はどこにあるのか。その対極に位置する文化に存在するのではないだろうか。

しかもそれはクールジャパンのごとき国威発揚とは連動しえない、どちらかといえば国家や権力にとって敵というよりも目障りだから処分しちまえ!といったところから立ち上がるのではないだろうか。

獅子舞のエピソードはそれを示唆している。


 






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