書評:本村凌二『愛欲のローマ史 変貌する社会の底流』講談社学術文庫、2014年。

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本村凌二『愛欲のローマ史 変貌する社会の底流』講談社学術文庫、読了。ローマ帝国繁栄下、過剰ともいえる欲望と淫靡な乱交が横行したが、その背景にはローマ人のどのような心性が潜んでいたのか。本書は風刺詩人のまなざしを頼りにしながら、性愛と家族をめぐる意識の変化をあぶり出す。

ローマ社会の性風俗をめぐる風刺詩人たちの声は、時と共に怒りの度合いを強めるが、背景には「『性』にまつわる言動を『汚らしい』ものとして忌み嫌う感性」の兆しが存在する。自己を見つめるストア派の生活倫理が受け入れられるのもこの土壌あってこそ。

家族意識にも際だった変化が訪れる。もともと「結婚」という形態へのこだわりがなかったが、帝政期を通じて同棲や内縁ではなく「結婚」に基づく家族という生活形態が身分や階層を問わず浸透する。「家名を尊重する家族」から「夫婦愛にもとづく家族」へ。

世相の転換の外形には「性の汚れ」の意識と「結婚にもとづく家族」の絆の在り方とが密接に関わっている。内なる世界を重んじる風潮は、結婚した夫婦間に独占される「性」を理想と見る倫理規範として具現化し、それは、キリスト教受容の助走となっていく。

「恥辱と悪徳の実態を問うとは、その根幹において、そこに生きている人々の愛欲の生態に目を注ぐことである」。ローマ人の「性」をめぐる倫理規範の変化を具体的に祖述する本書の議論は、フーコーの観点とぴったり重なってくる。『禁欲のヨーロッパ』と合わせて読みたい。



 





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