ルース・ベネディクト『人種主義 その批判的考察』の価値 人種主義−−現代社会における「主義」(ism) その1
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本書はRuth Benedict,Race:Science and Politics (The Viking Press,New York,1959) の翻訳である。
近年、“人種”概念の再検討が盛んであるが、一方には、J・P・ラシュトンの『人種 進化 行動』(蔵琢也訳、博品社、一九九六年)のように遺伝的人種差を認めるものもあれば、他方では、“人種”概念の「実体化」に対する批判も強い。こうした議論を検討する際、私達が留意しなければならないことは、その言説がどのような社会的背景・時代状況のなかでハッせられたか、という点であるだろう。それはベネディクトのような科学者の言説についても例外ではない。
−−「訳者あとがき」、R・ベネディクト(筒井清忠・寺岡伸吾・筒井清輝訳)『人種主義 その批判的考察』名古屋大学出版会、1997年、225頁。
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金がないので新刊がなかなか買えず、昔読んだ本を引っ張り出して読み直しております。
お恥ずかしながら、この歳になってはじめて、ベネディクト女史(Ruth Benedict,1887−1948)の価値を再確認。できあがった『古典』としての価値は認識しており、それ以上でも以下でもない「基本中の基本」だとは思っていたのですが、次の一言を忘れてはならないと思います。
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偏狭な地方主義によって歴史家は歴史を改ざんし、自らが属する集団の偉業を誇張する。しかしそれは所詮視野の狭い田舎主義であって、歴史とは言えない。歴史から明らかなように、卓越した文化的偉業は、時とともに人種から人種へ、大陸から大陸へと伝播していく。それがすべての「人種」を含んだことはなく、何らかの歴史的な理由でそのとき恵まれた境遇にあった民族集団の一部を捉えたものにすぎない。つまり、時代が平和でしかも集団として搾取をうけていないとき、その人種は好条件のもとで生活技術を進歩させてきた。だからどの人種に属していても、機会をつかめば歴史に名前を残すことができたのである。メソポタミアや中国、インド、エジプト、ギリシャ、ローマ、そしてイギリスではそれは可能となった。いかなる人種的な型も、高度な文化を独占するなどありえないことは明らかである。
したがって私たちは、人種の概念で人類の数々の威業を説明できるなどと考えずに、あくまでも歴史的、生物学的、計測人類学的に人種を研究しなければならない。人種は科学的な研究対象であるが、人類の歴史は、形態人類学による測定値の分布状況などよりもはるかに複雑であり、文化的才能が人種的遺伝によって機械的に伝達されたり恒常的に約束されることはないのである。
−−R・ベネディクト(筒井清忠・寺岡伸吾・筒井清輝訳)『人種主義 その批判的考察』名古屋大学出版会、1997年、20-21頁。
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関連リンク
American Ethnography Quasimonthly | Death
Penguin (Non-Classics)