覚え書:「教育基本条例案:「大阪維新の会」案 各地の教育界に拒絶感 教師「『罰』ありきの印象」/識者は政治介入を問題視」『毎日新聞』2011年12月19日(月)付。





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教育基本条例案:「大阪維新の会」案 各地の教育界に拒絶感 教師「『罰』ありきの印象」/識者は政治介入を問題視

 教育への政治介入や評価の低い教員の処分規定を盛り込んだ地域政党大阪維新の会」の教育基本条例案。11月27日にあった大阪の府知事・市長ダブル選で維新の会が圧勝し、実現に向け一歩進んだ。「維新ショック」は全国の教育界にも広がっている。【田中博子、福田隆、遠藤拓、木村健二】

 「教育委員会は、今回の選挙の結果をしっかりと重く受け止めるようお願いしたい」
 ダブル選の当選記者会見で、橋下徹・新大阪市長はこう述べた。維新は現在、府、大阪・堺両市の3議会での条例案可決を目指している。維新の条例案には、これまで「橋下教育改革」に協力してきた府の教育委員も反対を表明。中西正人教育長を除く全委員5人が、条例案が可決されれば辞任する意向を一時表明するなど異常事態となっている。

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 維新の条例案について、全国の教育関係者は一様に否定的だ。特に現役の教師からは、厳しい批判の声が上がっている。
 栃木県立高校の30代の男性教諭は「教員にも生徒にもまったくためにならない」と言い切る。「教員は自分の評価を高めることにきゅうきゅうとし、同僚と協力しなくなり、クラス編成で成績の低い子を押しつけ合うことにもなりかねない」とし、学校の雰囲気の極端な悪化を予想。「そんな職場で働きたくない」と話した。東京都の市立小に勤める男性教諭(34)は東京の実情と比較しながら「石原都政の10年余りで、都教委が教員への管理を強めた結果、特に若手は現場の状況に即していない指示でも、そのまま従うようになった。大阪もそうなるのでは」と懸念。「問題教員もいるが、背景に過密な労働環境があることも知ってほしい。処分強化で学校は良くならない」と訴える。
 千葉県内の公立高校の50代の男性教諭は条例案について「まず『罰』ありきの印象。教育の質向上が目的なら、処分より研修の充実が先ではないか」とし、統廃合も「定員割れを一方的に努力不足と評価するのは乱暴。結果的に行き場のない子供が増える」と疑問視する。しかし「今の学校には批判をはね返す力はない。生徒が活躍することで、教師の仕事を理解してもらうしかない」とも話した。

 一方、教育行政の立場からは慎重な意見が目立つ。
 文部科学省は府教委の問い合わせに、知事には教育目標の設定権限がないことから、条例案が地方教育行政法に抵触する可能性を示した。同省幹部は「教委に府民の意見がなかなか反映されていない、という改革を求める声自体は前向きに受け止めなければならない。議論を見守りたい」と話した。東北地方のある市の教育長は「一般論だが、教育は信頼関係を基に課題を共有することで、効果が上がる。学校と教育行政に加え、市長部局と教委の信頼関係も非常に重要だ」と慎重な姿勢を示した。

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 また、有識者は、条例案が基本概念として教育への政治介入を認めている点を問題視する。
 政治評論家の森田実氏は「条例案の一番の問題点は、政治のトップが教育に口を出せる体制を作ること。言うことを聞かない教員を排除するのであれば、戦前、戦中と変わらない」と指摘。「政治権力は『今すぐ成果がほしい』と考え、教育を利用しようとする傾向が強い。教育は国家百年の計で、長い目で考えるべき課題ばかり。たとえ世論の支持があっても、政治権力は教育に干渉、介入すべきでない」と警鐘を鳴らす。
 法政大の佐貫浩教授(教育学)は「橋下氏らは『不当な支配に服することなく行われるべきだ』と規定した教育基本法の趣旨を全く理解していない。知事が教育目標を設定し、教員の処分を厳格にすれば、教育は事実上知事の思いのままになる」とし、「教育基本条例と銘打っても、実態は『取り締まり条例』『処分条例』だ」と皮肉った。

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 批判的な見方が大勢を占める中、松井一郎府知事は今月、条例案修正の姿勢を見せている。維新の会が少数会派の堺市議会では15日、条例案を否決した。それでも、維新が過半数を占める府議会では、強行採決する可能性は否定できず、2月府議会の最終日まで緊張は続く。

 ◇維新の会の大阪府教育基本条例案骨子
・知事が教育委員会と協議し教育目標を設定
・府立高全校長を公募
・3年連続定員割れの府立高は統廃合
・学力テストの学校別結果を公表
・保護者らの学校協議会が校長・教員を評価
・2年連続最低評価の教員は分限処分(免職含む)
    −−「教育基本条例案:「大阪維新の会」案 各地の教育界に拒絶感 教師「『罰』ありきの印象」/識者は政治介入を問題視」『毎日新聞』2011年12月19日(月)付。

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