拙文:「書評 『アジア主義 その先の近代へ』 中島岳志著 潮出版社」、『第三文明』9月、第三文明社、2014年、98頁。
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書評
『アジア主義 その先の近代へ』
中島岳志著
潮出版社 定価1900円+税
「思想としてのアジア主義」の可能性
アジア主義とは国家を超えたアジアの連帯を模索する戦前日本の思想的営みと実践のことだが、日本思想史においては、これほど罵倒にみまれた対象は他にはない。なぜなら、連帯と解放というスローガンが、大東亜戦争という最悪の結果を招いたからだ。しかし、日本の未来はアジアとの友好的な連帯なくしてあり得ない以上、その思索の軌跡を尋ねることは必要不可欠だ。どのようにアジアを眼差し、何に躓いたのか。その精査によって未来への前進は可能になる。アジア主義の限界と挫折を腑分けし、可能性を掬い上げる本書は、その最良の導きになろう。
出発点は西欧列強の帝国主義の「覇道」を打破し、アジアの連帯という「王道」の確立だ。しかし王道を掲げる連帯には、常に日本の帝国主義という「覇道」が深く影を落とす。支援は介入というパターナリズムへと転化し、植民地支配を文明化と錯覚してしまうが、それは、暴力には暴力で応じるが如き陥穽でしかない。近代西洋という磁場に絡め取られた名誉白人の如き思い上がりは、アジア主義を必然的に変貌させてしまう。近代西洋という重力から自由になることが、まず必要なのだ。
著者は、「不二一元」論を説く岡倉天心や「東洋的不二」論の柳宗悦らに「思想としてのアジア主義」の可能性を見出す。彼らは、近代西洋のものの見方・考え方を根源的に変革することで、その筋道を素描している。
「社会進化という幻想、世俗主義の反宗教性、相対主義の限界。これらを乗り越えるためには、思想としてのアジア主義が必要です」、
同化か衝突を迫る二項対立から差異の相互薫発へパラダイムチェンジを促すところにアジア主義のアクチュアリティが存在する。
歪んだアジア蔑視ばかりが横行する現在、“わたしたちの課題”としてアジア主義に息吹を吹き込む本書を手に取ることで、情熱的に「その先の近代」へ進みたい。
(東洋哲学研究所委嘱研究員・氏家法雄)
−−拙文「書評 『アジア主義 その先の近代へ』 中島岳志著 潮出版社」、『第三文明』9月、第三文明社、2014年、98頁。
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