覚え書:「インタビュー:臨床宗教師という仕事 僧侶・臨床宗教師、金田諦應さん」、『朝日新聞』2015年04月22日(水)付。

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    −−「【意見広告】『国会活動』を行う【正統性の無い議員】は、憲法改正を発議する正統性が無い。」、『朝日新聞』2015年04月21日(火)付。

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インタビュー:臨床宗教師という仕事 僧侶・臨床宗教師、金田諦應さん
2015年04月22日

(写真キャプション)趣味のギターは約20本。「ダイナミックな視野と躍動感が臨床宗教師には必要ですね」=福留庸友撮影


 東日本大震災の被災地で、心に傷を負った人たちに、宗教者ならではの心のケアを施す専門職「臨床宗教師」が生まれた。宗教、宗派の枠を超え、被災者の声にじっと耳を傾ける。震災直後から活動を続け、東北大での研修の中核にもなっている宮城県栗原市の禅寺住職、金田諦應さん(59)に臨床宗教師の意義と可能性を聞いた。

 ——臨床宗教師とはどんな人なのですか。

 「災害の避難所や病院、福祉施設などの公共空間で、人々の苦悩や悲嘆に向き合い、可能な限り宗教的ケアを施す宗教者です。宗教的ケアの定義は難しいですが、宗教者としての体験、祈りや儀式を通して心のケアをするということです。最も大切なのが『傾聴』です。被災者の生の物語をじっくりと聴き、共に未来への物語を紡いでいく。『自』よりも先に『他』を大切にします」

 「私たちは空気や風景のような存在でいい。活動の場として震災の避難所や仮設住宅で『傾聴移動喫茶 カフェ・デ・モンク』を開いていますが、そこでの私の名前は『ガンジー金田』です。曹洞宗の僧侶とさえ名乗りません」

 ——ケアとは具体的に、どんなことをするのですか?

 「ある日、津波から逃げる途中に抱っこしていた幼子を失ってうつ状態になった母親から手紙が届きました。早速仮設住宅に行くと、まず『和尚さん、うちの子、今どこにいるんだべね?』。全身から搾り出すような問いです。長くて濃密な沈黙の後、『お母さんだったらどこにいて欲しいと思う?』と問い返し、彼女の答えが落ちてくるのをじっと待ちました」

 「10分ぐらいの長い沈黙だったと思います。その末に彼女はこうつぶやきました。『うちの子、光がいっぱいあふれて、いっぱいお花が咲いているところにいてほしいな……』って」

 「『待つ』ということはとても大切です。『こうだと思う』とこちらが言ったら本人の解決にならず、一歩前に進むことが出来ない。待ちながら交わす沈黙の会話がケアの第一歩かなと思います」

 「でもねえ、避難所で『あの子はまだ、おじいちゃんが亡くなったの知らないから話す時に注意して』と言われたり、熱心な世話役だった人が心臓発作で亡くなったと聞かされたり。私たちも精神的にきつかったです」

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 ——震災直後は、火葬場での読経ボランティアをされましたね。

 「私の地元、栗原市は、宮城県の内陸部にあります。『沿岸部のご遺体をこちらで荼毘(だび)にふすらしい』という情報を聞き、『この状況では、三陸の宗教者は誰も来られないだろう』と思ったんです。市の幹部や火葬場の指定管理業者に『犠牲者の供養をボランティアでやりたい』と申し出て、快諾してもらいました。呼びかけに応じた僧侶らと約1カ月続けました」

 「現場の職員さんに、遺族とつないでいただきました。『和尚さん方が最後のご供養をしたいと来ていますが、いかがしましょうか』と。そして、求められた方だけに供養を行いました」

 「宮城県内には宗教者の思いだけで活動したところもあったと聞きます。行政や現場職員に不快感を与え、後々宗教者が被災地支援に入りにくくなったようです。臨床宗教師の倫理に関わることで、関係するチームの人たちとの合意を大切にしなければいけません」

 ——読経ボランティアが臨床宗教師に発展したのですか。

 「もうひとつの山がありました。2011年4月28日、震災犠牲者の四十九日に仲間の僧侶やキリスト教の牧師さんらと、被害の大きかった宮城県南三陸町の海岸を追悼行脚しました。遺体やがれきの臭いが混じり合う道を歩く。道端でおじいちゃんやおばあちゃんが必死に手を合わせている。市街地から海岸へたどり着き、『破壊の海』を見たときは『神や仏はどこにいるんだ』と思いました。牧師さんは賛美歌を歌えなくなりました。私も読経できず、ただ空に向かって『法雨(ホーッ)』と叫ぶしかなかった。今まで身にまとってきた宗教言語が崩れ落ちたんです」

 「しかし、教義や宗派を超えた宗教者がともに歩き、苦悩の現場を共有したことは大きかった。それが臨床宗教師の構想に結びついたと思います」

    ■     ■

 ——臨床宗教師はもともと、ホスピスを運営する外科医の故岡部健さんの発想でした。岡部さんの構想と金田さんたちの実践はどこで交わったのですか。

 「震災の2カ月前でした。後に南三陸の追悼行脚をともにする牧師さんが、岡部先生主催の研究会で『看取(みと)りの神学』をテーマに発表しました。私は自殺防止活動をしていて、苦悩の現場は教義の枠に収まりきらないと感じていたので、『仏教教学や神学じゃ人を救えない。理屈は誰も聴いてくれないよ』と言ったんです。そんな牧師と坊主のやり取りをにやにや笑って見ていたのが岡部先生でした」

 「震災後の5月初め、震災に向き合う超宗教・宗派の組織『心の相談室』が東北大学にできました。私にも声がかかり、それから間もなくして岡部先生が臨床宗教師育成を語り始めました」

 「私は現場を大切にしたいと思っていたので、時期尚早ではと感じました。とにかく被災地で活動すべきだと。しかし岡部先生は末期ガンで、長年在宅緩和ケアにも携わっていました。死に行く者の道しるべとして、臨床宗教師を養成して緩和ケアチームに加えたい、と切実に願ったのでしょう」

 ——前後して、岡部さんらが東北大に実践宗教学の寄付講座を開き、臨床宗教師研修が始まりました。「カフェ・デ・モンク」は実習の場になったのですね。

 「最初の被災地支援はうどんの炊き出しです。でもこれは宗教者でなくとも出来る。どうしたらいいかと自問自答していると、天からストンと落ちてきたように『命は医者、坊主は心』という言葉がわいた。すぐさま、カフェのメッセージボードを書いたんです」

 〈“Cafe de Monk”はお坊さんが運営する喫茶店です。Monkは英語でお坊さんのこと。もとの平穏な日常に戻るには長い時間がかかると思います。『文句』のひとつも言いながら、ちょっとひと息つきませんか? お坊さんもあなたの『文句』を聴きながら、一緒に『悶苦(もんく)』します〉

 「文句、悶苦、モンク(僧侶)。すべてがつながった。『がれきのど真ん中にホッとできる最高のカフェをつくるべえ!』と仲間を誘いました」

 「岡部先生も何度も来てくれました。『医師である俺のところには誰も来ないで、青二才のような坊さんのところに皆が行って涙を流している。お前らはすごい。生と死をがっちり受け止めてる』と」

 「宗派、宗教、教義は言わない。被災者の声をじっくり聴かせてもらう。行政や住民への配慮。そういう姿勢が臨床宗教師研修には最適でした」

    ■     ■

 ——東北大の研修で、受講者はどんなことを学ぶのですか。

 「基本はやはり『傾聴』です。話を聴いてほしい人、苦しんでいる人の持つ『物語』を引き出す。技術以上に宗教者、人間としての感性が大切です。ただ、研修プログラムは3カ月なので時間が足りません。現在はプログラム自体を研究している段階だと思います」

 ——その後、宗教系の大学を中心に臨床宗教師の講座ができました。

 「宗教系大学は、教学を教えるだけでは手詰まり状態なのでしょう。教学と現場の往復こそが宗教の躍動感だと気づいたのではないでしょうか。関西や九州では臨床宗教師会もでき、活動の場は広がっています。ただし20年、30年と試行錯誤しなければ、試みもただのイベントになってしまいます」

 ——宗教というと引いてしまう人もいます。特に、オウム真理教のようなカルトへの警戒感というか怪しさというか。

 「オウムは宗教ではなかった。宗教は『生きとし生けるものすべてにどう向き合ったらいいのか』ですが、あの団体は自分の救済が中心でした」

 「震災以前はいわゆる『葬式仏教』に批判がありました。ところが、震災後はメディアの評価が百八十度変わったと思います。東北の宗教は葬儀を通して地域社会ときちんと結びつき、死者の物語を生者につなぎ、生死のあり方を伝え続けていたんです。犠牲者を弔う姿に触れて、理解を深めてもらえたのでしょう。そのありようは今回の活動の原動力でしたね」

 (聞き手 編集委員・小滝ちひろ)

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 かねたたいおう 1956年生まれ。500年続く宮城県栗原市曹洞宗通大寺の第26代住職を父から継いだ。東日本大震災の被災地をめぐる傾聴移動喫茶を主宰

 ◆キーワード

 <臨床宗教師> 宮城県名取市に在宅ホスピスケア専門の医院を開業した呼吸器外科医の岡部健さん(2012年9月没)が発案した。米国などで、病院や軍隊、警察、消防など、生死にかかわる組織に所属する宗教者「チャプレン」がお手本。特定の宗教・宗派に偏らない立場で、人々に宗教的なケアを施す。東日本大震災後、東北大に寄付講座ができて約100人が研修を受けたほか、龍谷大や高野山大などにも養成講座が生まれている。
    −−「インタビュー:臨床宗教師という仕事 僧侶・臨床宗教師、金田諦應さん」、『朝日新聞』2015年04月22日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11717347.html


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