覚え書:「みんなの広場 五輪招致より選手の人権尊重」、『毎日新聞』2013年02月07日(木)付。



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みんなの広場
五輪招致より選手の人権尊重
無職 74(長崎市

 柔道全日本女子の園田隆二前監督のロンドン五輪代表選手らに対する暴力や暴言は誠に残念である。日本は20年夏季五輪の東京招致を目指しているが、今は柔道女子だけでなく全競技で選手の人権を尊重する指導を徹底することが最優先である。それに向けた態勢が整わない限り、開催都市への立候補は辞退すべきだ。
 近代五輪の理念であるオリンピズムは「スポーツを人類の調和のとれた発達に役立てる。その目的は人間の尊厳を保つことに重きを置く、平和な社会を推進することにある」としている。暴力や暴言を繰り返す指導を見直さないまま、五輪開催を目指すのは矛盾するのではないか。選手に手を出してきた指導者は園田前監督だけではないはずだ。
 にもかかわらず、指導者教育の必要性を訴える声が聞こえてこないのは遺憾である。五輪招致やメダルを取ることも大切だが、今は競技の現場で、人絹尊重に徹することが優先されなければならない。
    −−「みんなの広場 五輪招致より選手の人権尊重」、『毎日新聞』2013年02月07日(木)付。

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覚え書:「【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。




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【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭

◆<中華>目指した施策を解明
[評者] 岡部 隆志 共立女子短大教授、古代文学。著書『古代文学の表象と論理』。
 本書は、日本の古代を縄文時代から律令(りつりょう)国家成立まで通して論じた歴史書である。ポイントは二つある。一つは、日本古代史を一貫してアジア、特に中国、朝鮮とのかかわりのなかで見つめること、もう一つは天皇制の成立を古代の中の近代とも言うべき律令国家成立の問題として把握することである。アジアとのかかわりは上田史学の一貫したテーマだが、すでに縄文文化からアジアとのかかわりなしには成立せず、アマテラスの神話から律令国家成立も含めて朝鮮を経由した大陸文化の大きな影響を受けていると説く。特に朝鮮からの影響を重視するのが本書の特徴であろう。
 それにしても日本は何故貪欲に影響を受けようとしたのか。それは、日本もまた中国に対抗して<中華>たらんとしたからだという。例えば、日本書紀には「新羅、中国に事(つか)へず」(雄略天皇七年)とあるがこの中国は日本を指す。つまり、日本は新羅を下に見て自らを「中国」と称したのである。日本という国号を使ったのも天皇と称したのも、中国、朝鮮との複雑な外交関係の中で、一方の<中華>たらんとして近代律令国家を成立させた天武・持統朝の施策だと解き明かしていく。
 こう見ていくと、日本の古代史は中国、韓国との領土問題を抱えた難しい外交関係の中で国家を強化しようとしている現代日本とそのまま重なりあうだろう。このことを照らし出すのも本書の意図であるようだ。本書は上田史学のコンパクトな集大成といった趣だが、現代日本のあり方を古代史を通して問おうとしている意欲作でもある。
 それにしても日本の古代史は面白い。今年は伊勢式年遷宮があるが、これも起源は古代に遡(さかのぼ)る。天皇制の向こう側には自然を神とみなすアニミズム文化をいまだに抱える日本があるだろう。本書にないものねだりをすれば、そういった日本の古代史をもっと論じて欲しかったということになろうか。
うえだ・まさあき 1927年生まれ。歴史学者。著書に『日本神話』『古代伝承史の研究』など。
(新潮選書 ・ (上)1575円、(下)1470円)
<もう1冊>
 森浩一著『古代史おさらい帖』(ちくま学芸文庫)。考古学の成果・知見と古事記などの文献を重ね合わせて古代史を再検証する。
    −−「【書評】私の日本古代史(上)(下) 上田正昭著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。

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覚え書:「【書評】それでもわが家から逝きたい 沖藤典子著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。




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【書評】それでもわが家から逝きたい 沖藤典子著

◆介護する家族見守る
[評者]森 清 労働問題研究家。著書『働くって何だ』『大拙と幾多郎』など。
 人はどこでどう逝くか、実際には本人も近親者も分からない。「わが家で自然に」が大方の願望。七十九歳、前立腺がん他の病を持つ評者もそう思っている。
 二〇一二年度から「定期巡回・随時対応サービス」が始まった。同年は介護職の簡易医療行為の解禁元年。痰(たん)の吸引などは介護職の仕事になる。いずれも課題は多い。介護を主題にとり組んだ本の蓄積の上で、高齢当事者としての目配りも加えて、本書でも現場を踏まえた見事な分析とさまざまな提言をしている。
 これまでの介護問題は、介護者育成が先立っていて被介護者と介護する家族双方の介護の知識と体験への配慮が不足していた。家族介護や在宅介護を見据える本書を読んで、改めてそう思った。介護は専門家に任せればいいという問題ではない。また介護する家族をケアする専門家が必要という意見も。大切なことだ。
 最終章で「尊厳ある死は尊厳ある生の線上にあるべき」と主張し、「看取(みと)りの文化」を専門家と市民で共有する時代が来ていると指摘。重要な課題である。「わが家」とは、安らぎのある空間のことではないか。場は種々あっていい。安らぎには生活の安定や医療・介護サービスだけでなく宗教心も必要だろう。「看取りの文化」と共に、逝く時を静かに見据えた「逝く文化」も高まってほしい。
おきふじ・のりこ 1938年生まれ。ノンフィクション作家。著書『あすは我が身の介護保険』など。
岩波書店 ・ 2100円)
<もう1冊>
 上野千鶴子著『老いる準備』(朝日新聞出版)。老いに向き合う姿勢や介護保険、介護と家族について語る。
    −−「【書評】それでもわが家から逝きたい 沖藤典子著」、『東京新聞』2013年02月03日(日)付。

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老いる準備 介護することされること (朝日文庫)
上野 千鶴子
朝日新聞出版
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