「VIEWPOINT 日仏に共通する長期的視野欠落 クロード・ルブラン」、『毎日新聞』2012年1月7日(金)付。


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VIEWPOINT 日仏に共通する長期的視野欠落
クロード・ルブラン 仏クーリエ・アンテルナショナル誌、現ズーム・ジャポン誌編集長

 サルコジ大統領を評価するフランス人は少ない。前回07年大統領選挙の支持者の多くでさえ、21時37分や嫌気がさし、遠ざかっている。日本でも野田佳彦首相の人気は芳しくない。首相の交代が大杉、国民は愛着を持てずにいるようだが、より本質的には、指導者が長期的なビジョンを示せないところに両国共通の課題がある。
 フランスでは大統領選を4月に控え、主要な候補はスケールの大きさに欠ける。サルコジ氏最大のライバル、社会党のオランド候補は存在感のなさを揶揄され、出身地の小さな町を政治の中心地にする野望を達成するのがせいぜいだろうとからかわれている。
選択肢の少なさは日本も同じだ。野田氏の首相選出は民主党内の人材不足からで、民主党政権が誕生した09年には誰もがマニフェストに期待したが、それもつまずいた。
失望した日本人が坂本龍馬など歴史的人物に範を求めるのはフランス人がドゴール将軍に理想を求めるのに似ている。彼らがかうて見せた将来への長期的ビジョンを渇望しているのだ。
 日本の政治家が官僚任せにして済んだ時代はすでに終わった。だがそれでもなおビジョンを示せる政治家は現れない。私の知る限り、田中角栄氏が唯一の例外で、現在の野田首相の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への積極的姿勢も、形を変えた従来の対米依存にすぎず、若い世代である橋下徹氏の主張もポピュリズム保守主義を混ぜただけに見える。
 フランスもさほど変わらない。07年のサルコジ氏の公約への期待はすでに失望に変わった。サルコジ氏は社会の不公平さを減らすどころか増やし、次第に保守色を強めた。これが支持率低迷の一因だが、より重要なのは、サルコジ氏に国の将来を展望する目がないことだ。欧州債務危機の火消しには躍起だが、20年後のフランスをイメージする力には欠けるとみられている。
 フランスの次期大統領には、経済に関する実現しない公約よりも、時代の先を読むビジョンが求められる。その意味で「脱原発」を訴える「欧州エコロジー緑の党」のジョリ候補が若い世代から支持されるのは理解できる。フランス人が期待するのは、大局的な視野に立った将来への大きな挑戦なのかもしれないのだ。

ことば 仏大統領選
4月に第1回投票、過半数を獲得する候補がいない場合、5月に第2回投票を行う。社会党のオランド氏は昨年10月の党予備選でオブリ党第1書記を破り公認。このほか極右「国民戦線」のルペン党首、「欧州エコロジー緑の党」のジョリ候補らが名を連ねる。サルコジ大統領は正式な表明をしていないが出馬が確実。社会保障原発の削減などが争点になる。世論調査では支持率でオランド氏がサルコジ氏をリードしている。
【構成・宮川裕章】
    −−「VIEWPOINT 日仏に共通する長期的視野欠落 クロード・ルブラン」、『毎日新聞』2012年1月7日(金)付。

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