日記:「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクトのいかがわしさについて……


竹田研究財団が『古事記』編纂1300年を記念して「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクトを立ち上げたそうですが、少しだけコメンタリーを残しておこうと思います。

同webによると概要は次の通り。

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一般財団法人竹田研究財団
古事記』編纂1300年記念事業 プロジェクトシート

 平成24年古事記編纂1300年の記念すべき年であることに鑑み、当財団では公益事業の一環として、「古事記1300プロジェクト」を立ち上げました。この計画は、一人でも多くの国民が古事記との縁を繋ぐことを目的とします。

■1 古事記普及事業
(「全国のホテルに古事記を置こう!」プロジェクト)

 従来、大多数のホテルの客室には、『聖書』と『仏教聖典』が常備されていますが、『古事記』が設置されているホテルは存在しませんでした。

 二十世紀を代表する歴史家のアーノルド・トインビーは
「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」
と述べています。

 日本では戦後、GHQの指示により神話教育が行われなくなりましたが、米国や英国をはじめとする連合国は、現在でも学校で神話教育をしています。日本人が日本神話を知らなくなったことは、日本の危機であると考えなくてはなりません。

 そこで、当財団は全国のホテルに無償で古事記を配布する事業を進めています。平成23年12月には、1万冊を印刷し配布しました。古事記1300年に当たる平成24年には、より多くの古事記をホテルの部屋に配備してきたいと考えています。

http://www.takenoma.com/kojiki1300.html

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概要を読むと次のような構成となっている。

1)『聖書』やら『仏教聖典』が常備されるホテルって多いですよね。

2)歴史家Aアーノルド・トインビーは 「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」 と述べています。

3)ならば『古事記』を置けや(ゴルァ

という寸法ですが、『聖書』や『仏教聖典』って、『古事記』と同義の「神話」なのでしょうか???

古事記』は確かに国造りの「神話物語」ですが、『聖書』や『仏教聖典』で神話の「物語」の如く語られた内容というのは、そうした排他的な神話を乗り越える挑戦だった訳で、そもそも併置して扱うことは不可能です。

『聖書』や『仏教聖典』はそもそも「民族の神話」ではありません。その代わり『古事記』を持ち出すというのは論理的に破綻してしまっています。

次にトインビーの言葉についてですが、そもそもトインビーがどこで「十二、三歳までに民族の神話を学ばなかった民族は、例外なく滅びている」などと言ったのかは瞥見では出典が確認できないのですが、トインビーがそうした言葉を述べたとしても、そもそも彼の『歴史の研究』は民族史・誌的な文明論的歴史学ですから、その地域の歴史の負荷を学ばない国家や民族は必ず滅びるものと捉えることができます。

だとすれば、歴史を「神話」化してしまう民族誌を手放しに礼賛することは最も慎まなければならないという話しになってしまいます。

そして敗戦による連合国の進駐は「神話教育」を否定しましたが、その本家「米国や英国をはじめとする連合国は、現在でも学校で神話教育」をしているということが述べられておりますが、そもそも米国にも英国にも『古事記』に該当するような「国造り」の神話はありません。

移民の多い英国においては「神話教育」ではなく、諸宗教を尊重した「宗教教育」があるのだけなのですが、どういうことなのでしょうか???

民族誌としての神話と、その神話を乗り越える宗教の混同、そして基礎的な認識の誤解。『古事記』が成立して1300年たったから、みんなで読もうぜということを全否定はしませんけれども、こうした営みは百万歩譲ってもですが、『古事記』そのものを毀損することになってしまうのではないかと危惧もしたりです。

そして『聖書』にしても『仏教聖典』にしても、さしあたりそのグループにしか当てはまらない「規範」や「伝統」を超越しようとした「霊性」に肝がある訳だから、日本からそれを発信しようとすれば内村鑑三の『代表的日本人』や鎌倉仏教の始祖の言葉をお勧めする推し本にしておくべきですし、これも一億万歩譲っての話しになりますが、民族の「国造り」の神話をお勧めするのであれば、『古事記』ではなくて『日本書紀』やろうという訳なのですが……いろいろととほほ過ぎることが多いですね。

とにかく時流に乗って、日の丸、桜という安直な挙動には、大御剣、大御鏡、御勾玉などをプリントした霊感商法的Tシャツを14700円で販売してた下衆さが見え隠れしてしまうというものでございます。

いやさか、いやさか

……もとい、

くわばら、くわばら。







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