覚え書:「子どもの本棚 言葉に紡ぐ 幼い頃の気持ち 児童文学作家 あまんきみこさん」、『朝日新聞』2016年10月22日(日)付。

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子どもの本棚
言葉に紡ぐ 幼い頃の気持ち 児童文学作家 あまんきみこさん
[掲載]2016年10月22日

児童文学作家のあまんきみこさん

 「白いぼうし」「ちいちゃんのかげおくり」などの代表作で知られる児童文学作家のあまんきみこさん(85)。今年は児童文化の発展に貢献した人に贈られる東燃ゼネラル児童文化賞も受賞した。これまでやこれからの創作への思いを聞いた。
 ――空色のタクシーの運転手が不思議なお客さんを乗せ、現実と幻想の中で町を巡る童話集「車のいろは空のいろ」でデビューしたのは37歳でした。
 2人の子どもにお話を考えて聞かせてあげるのが好きでした。下の子が幼稚園に入ったのを機に大学の通信教育課程に通い、その時に書いたリポートがきっかけで児童文学作家の与田凖一先生に出会い、その後に坪田譲治先生の雑誌「びわの実学校」に投稿したのがこの作品です。自分が物書きになると思っていなかったから自由な気持ちで書いていました。それがこんなに長く続くとは。
 上の子が生まれてすぐ夫の転勤で大阪から東京に来た時、いろんなところから人が来ていて、これだけ多くの人がいれば、人間の世界に溶け込むように不思議なものたちもどこかにいるんじゃないかという思いも創作のきっかけです。
 ――日常から不思議な世界に入る作風が魅力。新刊「きつねみちは、天のみち」(童心社)は、雨の日に「雨のすきま」からキツネの世界に迷い込む女の子の話です。
 子どもの頃、雨が降っているところと晴れているところの境目に行ってみたいと思いませんでしたか? 私はよく思っていたの。いろんなことを不思議に思っていたんです。たとえば「おにたのぼうし」は、嫌われ者だけど実は気のいい鬼のお話。大人になったら誰の命も大切なことがわかるけど、子どもの頃は鬼に生まれたらかわいそう、何に生まれてくるかを選べないことがこわいと思った。そうした幼い時の言葉にならなかった気持ちを、今紡いでいるように思います。
 小さい頃は病気がちで、ふとんで過ごす時間が多かった。その時、窓の外をよく見ていました。いろんな想像を巡らせて「空の絵本」を見ていたようで、それが創作につながっていると思います。
 ――今後書きたいことは。
 私は旧満州生まれで、子どもの頃の楽しい思い出もあります。でも、実は元々そこに住んでいた人たちが追いやられていたこと、また戦地で亡くなった人、戦地で見てきた大変な事実を抱えて生きてきた人たちのことを戦後知った。そうした事実に私自身、折り合いがついていないんです。戦争のことはまだ書ききれていないと思っています。
 子どもたちには人生の「祝祭」を感じてほしい。今は虐待とか子どもにとってつらいこともいっぱいあるけれど、生きているってすばらしい。私が幼い時に感じたことや出会った本が、今の自分の空想や思いにつながっている。子どもにとって本がそんな出会いとなればうれしいです。
(聞き手・畑山敦子)
    −−「子どもの本棚 言葉に紡ぐ 幼い頃の気持ち 児童文学作家 あまんきみこさん」、『朝日新聞』2016年10月22日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016102400001.html


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