「学問とは何ですか」「それは知る喜びである」
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学問そのものへの問いのなかで、とりわけ矢面に立たされた教科が一般教育でありました。教養を重視した新制大学の理念として各大学に設置された一般教養でしたが、高校の科目の単なる延長とみられたり、専門科目との関係づけの不十分さが表面化しました。
その渦中にあって(大学紛争のころのこと……引用者註)、教養に関して考えたことを述べます。
学生たちと大学総長とのある団交の席上、学生側から総長に質問が出ました。
「学問とは何ですか」
質問に答えて、総長は言いました。
「それは知る喜びである」
そのとたん一斉にわき起こった声は「ナンセンス、ナンセンス!」でありました。それにかき消されて、もはや総長は、説明の続行が不可能になりました。
当時は、「当局側は何をいっても「ナンセンス」と一笑されていたものですが、私は、その総長を多少知っていましたので、のちのクラスの授業に戻ってから、自分の理解した限りで総長の言いたかったことを説明しました。総長の答えの力点は「喜び」の方にあるのでないか、すなわち詰め込みの知識でなく、陽明学に「知行合一」の言葉があるように、「知る」ことが実践と一体となったり、そこに身体感覚的な「喜び」を味わうと、今度は「喜び」が進んで「知る」に至るというような話をしました。
教養とは、そのような意味での「知る」ことの養いであると、今でも思っています。したがって、すぐに効果の現れるものではありません。長い間の潜伏期間があり、人によって潜伏したまま発現しないで終わる場合があるかもしれないのです。
教養の効果を問われるならば、三〇年近く一般教育にたずさわってきた教師の述懐にもなりますが、教育と同じく効果とは無縁の世界というのが正解でしょう。日本の教育行政をみていると、あまりにも即効性を急ぎ過ぎているようです。教育効果は相当に長い年月を要するものとみなくてはならないと思います。正しくは、最後まで効果を期待できないものであると、私自身は思うようになりました。
近ごろ流行している言葉に「経済効果」があります。すぐに、金銭的価値に換算してしまう傾向です。経済的プロジェクトに関しては大事な問題ですが、なにごとにも、経済効果で価値を決めようとする風潮を感じます。教育や教養は、経済効果はもちろん、およそ効果設定に無縁なものの代表ではないでしょうか。教育や教養を物差しで測ることは困難でありますが、理念だけは高いに越したことはありません。その高い理念のひとつに、前述した意味での古典の読書があると考えます。
−−鈴木範久「心の古典に親しむ」、『古典に学ぶ』人事院公務員研修所、平成十七年、8−9頁。
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千葉の大学で一般教養の倫理学を講じているのですが、あと数回で終了です。
おもえば、週に1度の90分の授業するために往復6時間近くかけて通勤し、数名の学生とわいわいがやがや、自由にやっているのですが、あと数回となるとやっぱり寂しいものです。
たしかに通勤時間や費用対効果の面では、うーむと悩むこともあるのですが、それでも何時間でもかけて、たった1コマであったとしても、学生と言葉を介して、相対(あいたい)するというのは、やはり自分自身にとってもものすごく財産になるものですので、テキトーに済ませることはできないなーと実感する次第です。
さて、毎回、学生さんに、出席カード兼感想や質問用紙としてリアクションペーパーを配付しております。用紙の上半分をそれにあて、下半分は、読んでおいたほうがよい古典名著を1冊とりあげ、その抜粋とあらすじを紹介しております。
そうすると、時々、
「せんせい、こないだ紹介してくれた本、読んでみました☆」
……って反応があり、こちらもものすごく嬉しくなってしまうという単純野郎ですが、ホント、学生時代に、様々なものを身につけさせられる現行の「システム」のなかで、どれだけ、自分で探求するって契機は、そういう時代だからこそやっぱり大事だよなーなどと思うわけでして、まあ、あと数回になりますが、授業の中身だけでなく、様々なかたちで何かに触れさせていくという配慮はしっかり丁寧にやっていかないとーなと改めて思う次第です。
「知る」「喜び」とでもいうのでしょうか。結局、教員というのは何か出来上がった「知」なるものをカタログから紹介して、それを伝授するというのではなく、その手助けをする補助者にしかすぎませんから、一緒に学び合うことを大切にしたいと思います。
だから
「せんせい、こないだ紹介してくれた本、読んでみました☆」
ってあとに「ですけど、私はここがなっとくいかないんですよねー」っておまけもついてくるので、ここからが「はじまり」ですよね。
……と思いつつ、朝から何も食べずに授業したのですが、さすがに初夏の陽気にまいったので、乗換駅の高田馬場にて途中下車。17:00開店の「鳥やす」の1番客になった次第orz
まあ、こういう日もありますよ。