拙文:「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。

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読書
希望の思想 プラグマティズム入門
大賀祐樹 著

連帯と共生への可能性を開く

 現代思想の諸潮流の中でプラグマティズムほど不当な扱いを受けたものはない。実用主義の訳語は早計すぎて“浅い”という印象をあたえる。著者はパース、ジェイムズ、デューイといった源流からクワイン、ローティといった最前線までを俯瞰し、「希望の思想」としての魅力を取り戻す。連帯と共生を探るその可能性は、閉塞した現代に風穴を開ける光明だ。
 プラグマティズムとは「相容れない『信念』をもち、対立し合う人びとが、そうした相剋を乗り越えて連帯し、一つの『大きなコミュニティ』を形成するための指針であり、共生を可能ならしめる」思想のこと。ある概念を前もって確定させることはできないが、「その概念がいかなる帰結を生むのかを考察し、実際に何が生じたかを観察することは可能である」という格率から出発し、世界を認識しようとする。
 歴史を参照すれば、哲学的概念や宗教的信念は先験的に常に正しい訳ではない。その事実を踏まえるなら、人間社会に役立つ限り「暫定的」に正しいと認め、相互承認して生きるほかない。
 さまざまな価値観をもつ人々が同じ社会で生活すれば、唯一の正しさをめぐり摩擦を生まざるを得ない。しかし正しさをあらかじめ設定できない以上、「暫定的」すり合わせが不可欠だ。
 排他的言動があふれ、憎悪の信念対決が激しさを増す現代。プラグマティズムの示す“他者と共に生きる流儀”を身につける必要がある。(氏)
●筑摩選書・1620円
    −−「読書 大賀祐樹『希望の思想 プラグマティズム入門』筑摩選書 連帯と共生への可能性を開く」、『聖教新聞』2015年03月28日(土)付。

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日記:の落とし穴−−魔術的機能

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東日本大震災からちょうど4年経ちました。
現実に復旧したところもあれば、放置されているところもあったり、癒えた傷もあれば、直らぬ傷痕も残っています。

人それぞれに言いたいこと、言いたくないことはたくさんあるとは思いますが、ひとつだけ。

4年「前」の「事件」は、未曾有の震災であったにも関わらず、その「事件」が、何かを悪い方向へ導いていくための材料として都合良く「利用」されていること、そして本来目をむけなければならないことに目を瞑るように「利用」されていることだけが気がかりです。

震災直後の「絆」の連呼は、今や世界の中で咲き誇れ式の「自愛」の連呼へと変貌している今、そのことだけが気がかりです。




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<絆>の落とし穴−−魔術的機能
 大地震津波は、あらためて、「無縁社会」の恐怖を実感させ、原発事故は、科学技術が国家や企業の利益優先の「安全神話」と結びつくとき、どれほど巨大な災害をもたらすかを、まざまざと思い知らせたのでした。そして、このような思いの中で、人間をささえるさまざまな人と人との絆の有り難さをあらためて痛感させられたのでした。
 けれどもこうした中で、私にはとても気になることがあるのです。それは、絆には決して優しい「ふるさと」意識や家族回帰の思いがあるのですが、それを超えて、いつの間にか過剰なナショナリズムへ国民を引きずりこんでいく恐ろしい呪術的機能があるからです。折しも、竹島問題や尖閣諸島の領有権をめぐって、はなはだ剣呑な領土問題が、のっぴきならない仕方で浮上し、ナショナリズムの火が燃えかけています。偶然とは、とても思えない。絆が「ふるさと」回帰を超えて、ナショナリズムと手を結ぶとき、そのときに何が起こるか、言うまでもなく戦争です。それが政治の魔術であることを私たちは第二次大戦のナチズムやわが国の全体主義の経験を通して、肝に刻んだはずなのです。その防壁としての憲法九条なのです。憲法九条がなかったら、過熱したナショナリズムはたちまち男たちを闘争へ誘発する。それほどに過剰なナショナリズムは、危険をはらんだ暴力的魔性の力学そのものなのです。こうした視点からすると、絆という用語には、人間と社会を暴力に向かって駆りたてる危険な政治的魔術のような機能がある。それが怖い。
 「政治化した宗教」も「宗教化した政治」も、いかに暴力的で魔術的であるか。さかのぼれば、第二次大戦中の国家神道が、まさに政治的魔術として機能したのでした。このような文脈で見ると、<絆>にはきわめて危険な「落とし穴」が隠されている。このことを注意深く見極めていくことが肝要です。とりわけ宗教者は、その危険を見極めることに敏感でなければならない。事実、憲法改正の動きが、にわかに頭をもたげている。その動きも、一部は明らかに本来の強い日本をとりもどすといった魔術的な「ふるさと」回帰のナショナリズムと結びついている。
 このように見ると、<絆>は、きわめて両義的です。<絆>には共同体を古い絆から解き放ち、人々が主体的・選択的に他者と新しい関係を取り結び、新しい人間関係をつくっていくために不可欠な靱帯としての機能がある。これは自由であり、解放であり、<救い>そのものです。しかし、一方には、国民を縛って意のままに操るナショナリズム国家権力による魔術的な暴力の意味がある。
    −−山形孝夫「宗教の力 −−<絆>再考」、『黒い海の記憶 いま、死者の語りを聞くこと』岩波書店、2013年、92−94頁。

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覚え書:「ニュースの扉:佐伯一麦さんと歩く神戸・長田区 「復興」が持ち去った下町の根っこ」、『朝日新聞』2015年01月12日(月)付。


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ニュースの扉:佐伯一麦さんと歩く神戸・長田区 「復興」が持ち去った下町の根っこ
2015年1月12日

(写真キャプション)大正筋商店街を歩く佐伯一麦さん。シャッターの閉まった商店が目立つ=神戸市長田区

 阪神大震災が起きてから、20回目の1月17日を迎える。神戸の繁華街に震災の痕は見あたらなくなった。「復興」によって失われたものはないのか。東日本大震災からも間もなく5年目。被災地、仙台に住む作家の佐伯一麦(かずみ)さん(55)と、神戸市長田区を訪ねた。

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 神戸市中心街から電車で約10分。JR新長田駅を出ると、店と店がデッキで結ばれた商店街が現れた。高層マンションも並ぶ。佐伯さんは「都会の郊外には、どこにでもあるような街並みだよね」と街を見上げた。

 20年前、辺りは多くが木造の戦前から続く商店街だった。だが震災直後に起きた火災に包まれ、大半の店は焼け落ちた。

 そのわずか2カ月後、市は復興計画をつくった。再開発は市の念願だった。2710億円を投じる復興事業「アスタ新長田」。説明資料には《21世紀の神戸の発展の核とすべく、神戸市が全力をあげて再開発に取り組んでいます》とある。

 商店街はシャッターが下りた店が目立つ。「ご愛顧ありがとうございました」と店頭に掲げる衣料品店もある。うどん屋の男性がぼやいた。「前は年寄りが住みやすかったん。でもマンションになって人が減った。昔は店がすし詰めの路地に、人が行き来しとったのに。再開発は失敗だったんやろ。下町の根っこごと持ってかれてしもうた」

 佐伯さんは「慣れない高層マンション暮らしは、年寄りにはきつい。ここで生きてきた人の再建を妨げるよね」と漏らす。

     *

 建物には人の暮らし方が表れる。例えば昔の一軒家は、子どもの成長にあわせて建て増したり、改築したりしていた。病院などにも増築した「ジョイント」があった。「『継ぎはぎ』でやってきたのが、戦後日本の暮らしだった」。だから路地にも生活感や味わいがあった。

 だがバブル期のころから「継ぎはぎ」は「建て直して再開発」という動きに変わった。震災の起きた1995年は、パソコンの基本ソフト「ウィンドウズ95」の発売と重なる。パソコンも、スマホも、古くなると交換する。歳月が「良いもの」として流れなくなった20年――。

 「街も古いと取りかえる。見栄えはいいけど、どこにでもある街ばかりになったよね。若い人だって、こぎれいで画一的な街をそんなに求めているのかな」

 商店街を進むと、1本だけ電柱があった。脇に立つれんが混じりのビルの壁には「昭和59年」の文字。入居する店の女性は「震災の時はすぐそこまで火がきたが、焼け残った」と説明してくれた。佐伯さんはビルに目をこらす。「震災前の風景や、人の暮らしが続いていることが大事だよね。ここは新しい街と古い街の差が見える『つなぎ目』。ほっとするでしょう」

 そして、東日本大震災津波被害に遭った沿岸部に思いを寄せた。土地のかさ上げが進み、巨大な防潮堤が築かれようとしている。「陸地と海の境にも『つなぎ目』はある。野鳥が来ているところも工事で生態系を壊して、すっぱり遮断してしまう」

     *

 ビルから5分ほど歩くと、再開発されていないアーケード街に出た。路地に「丸五市場」の看板。屋台が集まったような木造の商店街だ。「庶民はごみごみしたところに愛着を覚えるんだ」。自然と足が向く。

 ただ、そこもシャッター通り。戦後から続く履物店を閉じるという女性は「震災後に人がいなくなった」と嘆いた。

 「何でも経済優先になって、我々も『スクラップ・アンド・ビルド』の精神にやられてしまったところがある」と佐伯さんは感じる。大きなもうけが出なくても、小さな店が物を作って売るささやかな喜びもあるはずだ、と。「復興にも多様性を認めないとね。箱物をデン、と作るのは、多様性とは正反対のやり方だと思う」

 (文・高津祐典、写真・水野義則)

 ■佐伯の目 歳月の良さ、感じられる社会を

 歳月は、良いものでもある。少しずつ商いを広げ、小さいお店を改修して、増築する。そういうつなぎ目に人間の工夫があった。取り壊すと、その歳月は見えなくなるし、高層ビルは歳月による変化が見えにくいよね。

 歳月を積み重ねた充実感は人間の感じ方にもあって、それが小説の表現として厚みを与えていたこともあった。

 今は何でも、ちょっと古いものは変えてしまう。熟練のようなものを求めなくなってしまった。この20年は「失われた20年」とも重なる。かけがえのないはずの歳月をそう呼ぶことも、歳月を重んじない表れかもしれません。

 成長を前提にした1億人規模の復興より、例えば7千万人の規模に見合ったやり方もあるんじゃないかな。人間が強くあればいい、という方向に向かわずに。中国とは別のやり方で存在感を示せばいいんじゃないかな。弱くてもいいじゃない。

 商店街も駅前はチェーン店ばかり。奥に行けばいくほど味わいがあった。でも路地裏の商店街のような建物はなくなっていってしまう。高齢化や地方経済といった問題が、被災した弱いところから露骨に表れてくるしね。単なる郷愁だけでは続かないし、根本的に考え方が変わらないと駄目なんじゃないかと思う。

 日本はこういう国土だから、一生に1度くらいは災害に遭う可能性が高い。大きい災害に遭うと、ほかの被災地への想像力も生まれる。神戸に「失敗した」という声があるなら、東北の復興にもいかしてほしい。

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 さえき・かずみ 1959年仙台生まれ。著書に「鉄塔家族」(大佛次郎賞)、「ノルゲ」(野間文芸賞)、「還れぬ家」(毎日芸術賞)など。

 ◆キーワード

 <阪神大震災と神戸> 1995年1月17日早朝、マグニチュード7・3の揺れが襲った。神戸市は死者4571人、行方不明者2人を出した。全壊6万7421棟、半壊5万5145棟。火災により6965棟が全焼した。JR新長田駅のある神戸市長田区は、921人が死亡。火災による被害が大きく、市全体の被害の7割にあたる4759棟が全焼した。

 ◇ニュースの扉は毎週月曜日に掲載します。次回は「ガレッジセール・ゴリさんと訪れる沖縄」の予定です。
    −−「ニュースの扉:佐伯一麦さんと歩く神戸・長田区 「復興」が持ち去った下町の根っこ」、『朝日新聞』2015年01月12日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11546561.html


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書評:ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエル/パレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、2014年。

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ミシェル・ワルシャウスキー(脇浜義明訳)『国境にて イスラエルパレスチナの共生を求めて』つげ書房新社、読了。「越えてはならない国境もあれば、むしろ破るべき国境もある」。本書はマツペンを経てAICで反シオニズム闘争を続ける「国境をアイデンティティとする革命家」の半生記。

シオニズムを知らずアラブを脅威としか感じないナイーヴかつ敬虔なユダヤ教青年が、イスラエルに渡り、同地の最左翼ともいうべき反シオニズム闘争を続ける原点は、故郷ストラスブールユダヤ人コミュニティでの体験に由来する。

ホロコーストの追悼行事の折り、ニガーという差別用語を何気なく使って大人から強打された。そこから「貧しい人々、弱い人々、身分の低い人々に自分を一体化させるのは、私のユダヤアイデンティティの一部となっていた」という。

著者はイスラエル本国のホロコーストアイデンティティの限界をユダヤ人中心主義に見て取る。人道に対する罪の認識がないから、ナチと同じような残虐行為をパレスチナ人には平然と行い、批判者を「ナチ」と罵倒するのがイスラエルアイデンティティ

「他者である非ユダヤ人も被害者になり得ることを認めることが、シオニズム言説と袂を分かつ重要な一歩である」。アンチ・テーゼ関係にある価値観の間には通行不可能な国境があるが、人や文化の交流や共存を禁じる国境は否定すべきである。

著者の常人ならざる歩みは、まさに「過激」といってよい。しかし「過激」にならなければ、“常識のドクサ”が秘めるより重大な暴力性を暴くことは不可能であろう。柔軟かつしなやかに現世の重力を撃つ、今読むべき1冊。




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覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 本物の『成長戦略』とは 赤穂浪士の考現学=宮武剛」、『毎日新聞』2014年12月10日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
本物の「成長戦略」とは
赤穂浪士考現学
宮武剛 目白大大学院客員教授

 唐突な解散の末、総選挙の投票日は14日に迫った。ちょうど赤穂浪士討ち入りの日に重なる(元禄15年)。単なる偶然だが、あの四十七士は、年齢や経歴で現在に通じる意義がある。
 最年長の堀部弥兵衛の77歳。高田馬場でのあだ討ちで名を上げた「飲んべえ安」こと中山安兵衛にほれ込み、娘の婿にしたガンコじいさんである。
 次いで69歳の間喜兵衛ら60代は5人、50代も4人。「人生50年」の当時を考え、50歳以上線引きをすれば、高齢化率21%強の高齢集団であった。
 指導者の大石内蔵助は45歳の男盛りで40代は6人、30代16人、20代13人、10代2人。
 老年の知恵と経験、壮年・青年の意気と活力がからみ合う構成でもあった(年齢は後述の寺坂を除いて享年、大目付仙石久尚調査書等から引用)。
 家老の大石を筆頭に奉行や足軽頭もいたが、むしろ身分や禄高の低い同志が目立つ。
 大石の息子・主税をはじめ「部屋住み」が8人もいた。現代風にいえば定職のないフリーターである。足軽寺坂吉右衛門や5両3人扶持の神埼与五郎らの軽輩も加わった。いわば現在の非正規労働者に似ている。
 あだ討ちを奨励する気は毛頭ないが、年齢や身分を超え、平等に結束した集団から何を学ぶべきなのか。
 もう「人生80年」の時代になって久しい。
 「何歳から老後?」との問いに「70歳から」が最多の32%で「65歳から」の28・6%を上回る。特に65歳以上の回答者では「70歳から」40・4%、「75歳から」20・2%。「何歳まで働きたいか?」も65歳以上では「70歳まで」が最多の21・2%に上る(2012年高齢期における社会保障に関する意識等調査)。
 現在の堀部弥兵衛は無数にいるのだ。その一方で、若者たちはどうか。
 65歳以上のいる世帯のうち3世代同居は1986年の44・8%から13年には13・2%に落ち込んだ。ただし、65歳以上で「配偶者のいない子と同居」は同じ期間に17・6%から26・1%へ逆に増えた。"結婚しない症候群"の広がりである、
 「仕事あり」のうち20代前半では33・2%、20代後半でも17・2%は非正規労働者だ(13年国民生活基礎調査)。年収200万円未満の現代版「部屋住み」では、"結婚できない症候群"も広がる。
 男女を問わず、同じ仕事なら同じ待遇と社会保障の支えを得られる、若いカップルが働きながら子育てができる、意欲があれば年齢に関係なく働ける社会でありたい。
 その地道な社会改造こそ本物の「成長戦略」ではないか。
社会保障に関する意識等調査 老後の生活感や社会保障のあり方を問う厚生労働省の調査(回答約1・1万人)。重要なのは「老後の所得保障(年金)」「高齢者医療や介護」「医療保険・医療提供体制」の順(複数回答)。世代別では30−39歳は「子ども・子育て支援」、29歳以下は「雇用の確保や失業対策」が1位だった。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 本物の『成長戦略』とは 赤穂浪士考現学=宮武剛」、『毎日新聞』2014年12月10日(水)付。

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日記:首相が保守速報を「ソース」に語る「美しい日本」

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【悲報】 安倍首相がFBで保守速報を紹介 - NAVER まとめ

内閣総理大臣・安倍晋三、ヘイトサイト「保守速報」をシェア - Togetter

ご本人および関係者は「いいね」をすでにはずし、さも被害者のごとく振る舞っておりますが、一国の首相が保守速報をシェアする、そんな時代ということに驚いてしまう。

ヘイトスピーチとゆがんだ民族差別、そして戦前声高に叫ぶのが「保守速報」。しかも現在その姿勢が民事訴訟でとりだたされているご時世。くりかえしになりますけれども、一国の首相が保守速報をシェアするとはこれいかに。

口では民族差別は断じて許しませんなどとすっとぼけたことをおっしゃりますが、内面では民族差別の何が悪いんやというのがその実情というところでしょう。

あほすぎてくらくらしてしまう。

しかもその騒動のあった日の朝刊(11月23日、『朝日新聞』)では、「法務省人権擁護局・全国人権擁護委員連合会」の広告が掲載。曰く「ヘイトスピーチ、許さない」。
 

さて蛇足ながら、fbでの「いいね」をはずし、紹介した記事にかみつくと同時に、そのことを指摘した人間を次々とブロックしているという「小物っぷり」。

失笑を禁じ得ないとはこのことか。

そういえば、昨日の『東京新聞』(2014年11月27日付)で、「首相はネトウヨだった!?」ってありましたが、まあ、まさにそうやろうなあ。

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覚え書:「特集ワイド:解散に寄せて 作家・高村薫さん 投票は有権者の『意地』」、『毎日新聞』2014年11月21日(金)付夕刊。

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特集ワイド:解散に寄せて 作家・高村薫さん 投票は有権者の「意地」
毎日新聞 2014年11月21日 東京夕刊

高村薫さん=大阪府吹田市で、宮武祐希撮影

集団的自衛権の行使容認に反対し首相官邸前でデモをする人々。安倍政権の2年で「国のかたち」は大きく変わった=東京都千代田区で7月、矢頭智剛撮影

 安倍晋三首相が総選挙に打って出た。永田町では「大義なき解散」と突き放した見方が強いが、有権者が態度決定を迫られる事実に変わりはない。政権交代後の2年間は何だったのか。1票の持ち主が問われているものは何か。重厚な小説と硬派な時評で知られる直木賞作家、高村薫さん(61)に会いに行った。【浦松丈二】

 ◇選挙は経済失政隠すための手段 昭和初期まで歴史を巻き戻されないか
 「本当に冗談みたいな解散ですよね。私たち有権者に理解できるような理由が一つも見あたらない」

 インタビューの冒頭、高村さんは「冗談みたい」を繰り返した。20歳になった1973年以降、選挙は欠かさず投票してきた作家にとっても、今回の解散・総選挙は未体験に属することだったようだ。「今後、アベノミクスの失敗で経済指標は悪くなる。このまま解散を引き延ばせば来年4月の統一地方選で大負けするから、その前に……と安倍さんは思ったのでしょう。要するに経済失政を覆い隠すための手段に過ぎないということです」

 大阪府内の自宅を訪ねた日、大理石の床に冬の木漏れ日が差し込んでいた。

 「2年前、私たちは安倍政権に何を求めたのでしょうか……」。木製の大きなテーブルの向こうから、静かに問いかけてきた。

 思い起こせば、米国発の景気低迷が当時の日本を暗く覆っていた。有権者の多くはアベノミクスに期待した。だが高村さんの評価は厳しい。

 「大規模な金融緩和で無理やり円安に誘導しても、大企業の製造拠点は海外に移ってしまっており、輸出は期待ほど伸びなかった。円安で輸入物価は上昇し、生活が苦しくなっただけ。この2年間でアベノミクスが失政だったことがはっきりしました」。その言葉を裏付けるように、17日に内閣府から公表された7−9月期の国内総生産(GDP)の速報値は市場予測を大幅に下回り、4−6月期に続く2四半期連続のマイナス成長となった。多くのメディアが「日本経済は景気後退局面に入った可能性がある」と解説している。

 安倍政権は、円安になれば輸出主体の大企業の業績が好転し、下請けや孫請け企業に波及するとも主張した。液体が滴り落ちるさまを表す英語から「トリクルダウン効果」と呼ばれる。「高度経済成長期ならともかく、大企業でさえ生き残りに必死で、合従連衡が日常化し経済構造が複雑化した今、富が上から下へ確実に流れると誰が言えるのでしょうか」。高村さんは一蹴するのだ。

 少子高齢化が進む地方の景気低迷は、より深刻だ。安倍政権・自民党は「地方創生」を叫び始めたが、高村さんには本気が感じられない。「地方を元気にするには、地場の中小企業が生産性を上げ、自分たちで雇用を生み出していくしかない。構造改革は待ったなしの状況なのに、アベノミクスでは相変わらずばらまき型の公共投資をして国への依存を助長し、地方の活性化を妨げている。さらに休業手当や賃金の一部を助成する雇用調整助成金にしても、非効率な企業を延命させ、経済の新陳代謝を遅らせるだけ。それよりも会社をたたみやすくしたり、新たな産業を呼び込む制度を整えたりするのが先でしょう」

 高村さんが強く疑問視するものが、もう一つある。

 安倍政権は7月に閣議決定憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使容認へとかじを切った。「戦後の歴代政権の内閣法制局が積み上げてきた憲法解釈を、いとも簡単に変更した。しかも、それをしたのは同じ自民党中心の安倍政権。いったい何の権利があって、と憤りを覚えます」。口調が一段と厳しさを増した。「戦後69年、日本人が守り続けた『戦場で人を殺さず、殺されもしない』という歴史に終止符が打たれる。安倍さんの言う『積極的平和主義』で平和が維持できると考えるなんて、それこそ妄想以外の何ものでもありません」

 高村さんは安倍政権の問題点を次々と挙げた。2年前の消費増税を巡る3党合意と議員定数是正の公約が置き去りになっていること。靖国神社参拝で中国や韓国などとの関係をこじらせたこと。「戦後レジームからの脱却」を掲げながら、米国の意向に沿って米軍普天間飛行場辺野古移転を進めたこと……。

 安倍首相は、今回の解散・総選挙を一つのお墨付きとすることで、さらなる長期政権を目指しているといわれる。その先には何があるのだろう。

 「私には安倍さんが、軍部の台頭を許し戦争への道を歩み始めた昭和初期まで歴史を巻き戻そうとしているように見えます。安倍政権が長期化したら、私たちはどこまで連れて行かれるのか。来年は戦後70年です。この節目の年を安倍首相のもとで迎えることの意味を、私たちはもっと深刻に考えるべきではないでしょうか」

 9月の内閣改造後は閣僚のスキャンダルが相次いだ。自民党衆院議員を主人公にした小説「新リア王」を書いた高村さんの目に、今の自民党はどう映る?

 「小説の舞台にしたのは1980年代です。当時の国会議事録を丹念に読みました。その頃も汚職などの不祥事はありましたが、国会では中身のある議論をしていた。与野党ともに、まともな政治家がいたのです。2000年代以降の政治家たちは軽すぎて小説にならない。うちわやSMバーが、議事録にも残る国会で議論されるなんて、恥ずかしい限りです」

 自らの「足もと」をきちんと見られない政治家や経営者が増えているのが、何より気になるという。「武力行使容認」に舞い上がる人々しかり、原発の再稼働を急ぐ電力会社しかり……。「経済効率からも、巨額の賠償リスクがある原発を抱えたまま会社を経営していけるわけがない。これもまた妄想ですね」

 消費増税の1年半延期と21日解散を表明した18日夜の安倍首相の記者会見。「重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである」という熱弁も、その耳には空疎に響いた。「今のうちに、という本音が透けて見えるから、言葉の一つ一つに重みが感じられない。安倍さんの、安倍さんによる、安倍さんのための解散・総選挙であることを裏付けたと言っていい」

 政治家の言葉の軽さ−−。偽りのない「語り」によって人間の存在の意味を問い続けてきた高村さんには、それが耐えられない。

 「消費増税についても、法律から景気条項を外すから次は必ずやると言いますが、その時にも安倍さんが首相を務めているという保証はない。政治家は、そこまで考えて一つ一つの決断をすべきだし、有権者は彼らの言葉が信じるに足るかをしっかり吟味しなければなりません」

 そして「驚いた」のは、安倍首相自身が総選挙の勝敗ラインについて「自民、公明の連立与党で過半数を維持」と設定したことだった。

 自民党現有議席は294議席過半数を53議席も上回り、公明党の31議席もある。しかも、与党がすべての常任委員会で委員長を出し、委員数も野党を下回らない「安定多数」でなければ不安定な政権運営を迫られるというのが常識だ。

 「選挙には勝つものとたかをくくっている。だから不用意な言葉が出るとしか理解のしようがない」。ここにも緊張感の欠如を見るのだ。

 昨年暮れ、特定秘密保護法が成立した直後にした本紙のインタビューで、高村さんは次のように言っていた。

 <私たち自身の政治感覚の鈍麻が、政権の暴走を許してしまう。そうさせないためには主権者として、そして有権者として、政権に一定の歯止めをかける理性を持つことだと思う>

 政治を注視し、理性で判断する。「完全無党派」の高村さんがたどりついた一つの結論なのかもしれない。

 では、私たちはどう1票を行使すればいいのか。

 「確かに受け皿になる野党はないかもしれない。700億円もの経費を使うのに、今やる必要のない、意味の薄い選挙かもしれない。それでも投票所には行くべきです。そして、考え抜いた1票を投じてほしい。白票だっていいんです。これは、有権者の『意地』の問題なのです」

 事実や論理を一分のすきもなく積み上げ、精緻かつ壮大なフィクションを構築してきた作家が「意地」や「白票」を口にする。それほどにこの国の未来を憂えているのだ。

 有権者はどんな「答え」を永田町に突きつけるだろうか。

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 ■人物略歴

 ◇たかむら・かおる
 1953年、大阪府生まれ。90年に「黄金を抱いて翔べ」で日本推理サスペンス大賞を受賞しデビュー。著書に「レディ・ジョーカー」「太陽を曳く馬」「冷血」。直木賞選考委員。全国の地方紙などに「21世紀の空海」を連載中。
    −−「特集ワイド:解散に寄せて 作家・高村薫さん 投票は有権者の『意地』」、『毎日新聞』2014年11月21日(金)付夕刊。

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http://senkyo.mainichi.jp/news/20141121dde012010002000c.html


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