第二次世界大戦

書評:藤原辰史『稲の大東亜共栄圏 帝国日本の〈緑の革命〉』吉川弘文館、2012年。

藤原辰史『稲の大東亜共栄圏 帝国日本の〈緑の革命〉』吉川弘文館、読了。本書は帝国日本の「コメの品種改良の歴史にひそむ、『科学的征服』の野望」を明らかにする一冊。品種改良に取り組んだ農学者の軌跡は、「生態学的帝国主義」の歴史である。緑の革命は…

書評:「山口周三『南原繁の生涯 信仰・思想・業績』(教文館)、『第三文明』2013年3月、96頁。

- 「現実的理想主義者」の実像を生き生きと伝える 近代日本の思想的系譜において、良心と良識を担うチャンピオンは内村鑑三と新渡戸稲造である。この二人の師から直接の薫陶を受けたのが本書の主人公・南原繁である。戦後初の東大総長として教育改革を指揮し…

覚え書:「書評:『ホロコースト後のユダヤ人』 野村真理著 評・星野博美」、『読売新聞』2013年01月20日(日)付。

- 『ホロコースト後のユダヤ人』 野村真理著評・星野博美(ノンフィクション作家・写真家) 欧州を去った真の理由 ナチによってユダヤ人が虐殺されたホロコーストについて知らない人はほとんどいないだろう。生き残った多くの人が「約束の地」を求めてパレス…

覚え書:「フランス組曲 [著]イレーヌ・ネミロフスキー [評者]小野正嗣」、『朝日新聞』2013年01月20日(日)付。

- フランス組曲 [著]イレーヌ・ネミロフスキー [評者]小野正嗣(作家・明治学院大学専任講師)■戦時下の人間描く一大絵巻 1940年6月、ナチスドイツはフランスに侵攻する。フランス軍は敗走を重ね、パリをはじめとする北部はドイツ軍に占領される。道から…

書評:ダン・ストーン(武井彩佳訳)『ホロコースト・スタディーズ 最新研究への手引き』白水社、2012年。

- ……ジャック・デリダ、エミール・ファッケンハイム、テオドール・W・アドルノ、エマニュエル・レヴィナスらの哲学は、ホロコーストなしでは理解不能である。同じように、イムレ・ケルテース、ピョードル・ラヴィッチ、レイモンド・フェダマン、ホルヘ・セ…

覚え書:「書評:戦後沖縄と米軍基地―「受容」と「拒絶」のはざまで [著]平良好利 [評者]中島岳志」、『朝日新聞』2013年01月06日(日)付。

- 戦後沖縄と米軍基地―「受容」と「拒絶」のはざまで [著]平良好利 [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史) ■固定化を進めた奇妙な連携 沖縄の米軍基地問題には、多様な主体が絡まる。立場の異なる住民、沖縄の政治リーダー、日本…

覚え書:「みんなの広場 開戦の日に平和を強く望む」、『毎日新聞』2012年12月16日(日)付。

- みんなの広場 開戦の日に平和を強く望む 無職 80(鹿児島県出水市) 12月8日は太平洋戦争が始まった日である。あれから71年が過ぎた。戦争の記憶が風化するのが怖い。 1941(昭和16)年のこの日、午前6時の大本営発表を告げるラジオで開戦を知った。…

覚え書:「今週の本棚:池内紀・評 『フランス組曲』=イレーヌ・ネミロフスキー著」、『毎日新聞』2012年12月16日(日)付。

- 今週の本棚:池内紀・評 『フランス組曲』=イレーヌ・ネミロフスキー著 ◇池内紀(おさむ)・評 (白水社・3780円) ◇誇り高く優雅な「占領下の観察」 連作にあたる小説二編と作者ノートなどがついて計五六五ページ。強力な磁石にすいよせられるように…

覚え書:「みんなの広場 語り継ごう満蒙開拓団の悲劇」、『毎日新聞』2012年12月07日(金)付。

- みんなの広場 語り継ごう満蒙開拓団の悲劇 会社員 58(福岡県嘉麻市) 先日の余録に「東京満蒙開拓団」(ゆまに書房)の書名を見つけた時は驚いた。先日読み終えたばかりの本が紹介されていたからである。 私の両親は旧満州(現中国東北部)からの引き揚げ…

書評:平野伸人編『本島等の思想 原爆・戦争・ヒューマニズム』長崎新聞社、2012年。

1988年12月、「昭和天皇に戦争責任はあると思います」と発言し、右翼に銃撃された元長崎市長・本島等さん。本書は本島氏の代表的な論説や講演を収録した思想集大成である。 本島氏の言動は過激と評される向きもあるが、それは同調社会に一石を投じる魂…

覚え書:「太平洋戦争:庶民の日記が伝える戦争観 緊張した中にも開戦日の高揚感」、『毎日新聞』2012年12月08日(土)付。

- 太平洋戦争:庶民の日記が伝える戦争観 緊張した中にも開戦日の高揚感 毎日新聞 2012年12月08日 東京朝刊 1941年に日本と米英が開戦してから72回目の「12月8日」を迎えた。当時の国民は、多くの犠牲を払った太平洋戦争の始まりをどう受け止めたの…

書評:ノーマン・M・ネイマーク(根岸隆夫訳)『スターリンのジェノサイド』みすず書房、2012年。

- スターリンは大量殺人者として生まれたのでもなければ、そうなるように育てられたのでもなかった。コーカサス地方とグルジアで受けた教育では、かれのソヴィエト制度への君臨を特徴づけた極端な暴力を説明できない。スターリンは時間をへてジェノサイド実…

書評:アントニー・ピーヴァー、アーテミス・クーパー(北代美和子訳)『パリ解放 1944ー49』白水社、2012年。

- ひとたび喝采が消え去ったあとも、自らの解放者を愛し続ける国はほとんどない。自分たちの国家と政治制度とを、実質的にゼロから立てなおすという気の重くなる現実と向き合わなければならないのである。かたわらでは、私たちが今日「政権交代」と呼ぶ混乱…

覚え書:「異論反論 沖縄で米兵による性暴力事件が起きました=佐藤優」、『毎日新聞』2012年10月31日(水)付。+α

- 異論反論沖縄で米兵による性暴力事件が起きました 寄稿 佐藤優「事故」とする政府の不誠実 16日、沖縄で発生した米兵2人よる集団強姦致傷事件によって、日本の国家統合が揺らぎ始めている。事件自体の悪質性だけでなく、それに対する中央政府の対応が不誠…

覚え書:「書評:東京満蒙開拓団 [著]東京の満蒙開拓団を知る会 [評者]出久根達郎(作家)」、『朝日新聞』2012年10月28日(日)付。

- 東京満蒙開拓団 [著]東京の満蒙開拓団を知る会 [評者]出久根達郎(作家) [掲載]2012年10月28日■大陸へ移住した江戸っ子たち 「目からウロコ」とは、このことだろう。 満蒙開拓団とは旧満州農業移民であるから、長野県や山梨県など農村部の人たちで組織され…

覚え書:「今週の本棚:『未解決の戦後補償』=田中宏・中山武敏・有光健ほか著」、『毎日新聞』2012年10月28日(日)付。

- 今週の本棚:『未解決の戦後補償』 田中宏・中山武敏・有光健ほか著 (創史社・1890円) 「大東亜共栄圏」を掲げた大日本帝国の戦争は、国内外に禍根を置き去りにした。被害者や遺族たちは戦争が終わって67年たった今も、補償や謝罪を求めて闘っている…

覚え書:「書評:官僚制としての日本陸軍 [著]北岡伸一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)」、『朝日新聞』2012年10月21日(日)付。

- 官僚制としての日本陸軍 [著]北岡伸一 [評者]保阪正康(ノンフィクション作家)■明治の政軍関係、解体の過程描く 著者は冒頭で、本書が「近代日本における政軍関係の特質を、さまざまな角度から明らかにしようとするもの」と語る。日本陸軍の誤謬(ごびゅう…

政治はそもそも絶対的に異なっている者を相対的な平等という点で組織するのであって、相対的に違っている者を組織するのとは区別されるのである。

- すべての人間は、お互いに絶対的に異なっているのであり、この差異は、民族、国民、人種という相対的な差異より大きなものである。その場合、神による《人間》の創造は、複数性のなかに含まれている。しかしながら、政治はこの点ではまるで何も関係ない。…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『中国革命と軍隊』=阿南友亮・著」、『毎日新聞』2012年10月7日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『中国革命と軍隊』=阿南友亮・著 (慶應義塾大学出版会・7140円) ◇共産党軍の“黎明”から現代中国を考える 日本による尖閣諸島国有化を機に、中国では反日デモの嵐が吹き荒れた。この間、メディアの報道を注視していて気づ…

覚え書:「今週の本棚:富山太佳夫・評 『出版と政治の戦後史』=アンドレ・シフリン著」、『毎日新聞』2012年9月30日(日)付。

- 今週の本棚:富山太佳夫・評 『出版と政治の戦後史』=アンドレ・シフリン著 (トランスビュー・2940円) ◇激動を追い求める編集者の目線 「しかし、多くの人にとって、仕事や年金を失うかもしれないこと、とくに中高年になってそうした目にあうという…

書評:奥田博子『原爆の記憶 ヒロシマ/ナガサキの思想』慶應義塾大学出版会、2010年。

奥田博子『原爆の記憶 ヒロシマ/ナガサキの思想』慶應義塾大学出版会、読了。本書は著者のいう通り「戦後日本の『平和と経済成長』神話と表裏一体にある『唯一の被爆国/被爆国民』神話の解体をめざすもの」。「唯一の被爆国・被爆国民」の「脱構築」の可能…

狭隘な軍国主義的運動のため、彼らが如何に敵愾心、憎悪心を助長せられ、精神生活の歪曲と低下とを余儀なくせられて居るかを思ふ時

- 静かに青少年教育の立場から考へて、狭隘な軍国主義的運動のため、彼らが如何に敵愾心、憎悪心を助長せられ、精神生活の歪曲と低下とを余儀なくせられて居るかを思ふ時、そゞろ戦慄を禁じ得ないものがある。某々事件を殊更に宣伝の材料にした映画、読物、…

覚え書:「異論反論 節目の年に日中関係が緊迫しています=木戸久枝」、『毎日新聞』2012年9月19日(水)付。

- 異論反論 節目の年に日中関係が緊迫しています 両国関係と文化交流は別 寄稿 木戸久枝 今月29日、日中国交正常化40周年を迎える。本来ならお祝いムードに包まれてもいいはずだが、実際には緊迫した空気が日中間に漂っている。 11日、政府は尖閣諸島の3島…

覚え書:「日中歴史から考える 満州事変81年 (中) 成田龍一氏」、『毎日新聞』2012年9月16日(日)付。

- 日中歴史から考える 満州事変81年 (中) 日本女子大教授(近現代日本史)成田龍一氏政党政治、閉塞感に策無く 満州事変(1931年)は、「大日本帝国」にとっての決定的な分かれ道だった。1920年代後半、普通選挙が実施されるにいたり、政党は人々…

書評:吉田敏浩『赤紙と徴兵―105歳、最後の兵事係の証言から』彩流社、2011年。

一兵事係が密かに残した記録から実体を精査する一冊。村役人の兵事係は赤紙配達だけでなく、対象の資質・技能も平時から調査し、死後は戦死報告も。末端の苦悩から浮かび上がる恐るべき生−権力。決して過去の話ではない。著者が取り上げる兵事係の西邑さん(…

覚え書:「今週の本棚:鹿島茂・評 『パリ解放 1944−49』=A・ビーヴァー、A・クーパー著」、『毎日新聞』2012年9月9日(日)付。

- 今週の本棚:鹿島茂・評 『パリ解放 1944−49』=A・ビーヴァー、A・クーパー著 (白水社・4410円) ◇大国に翻弄された仏秘史を綴れ織りに ベルリン陥落やスペイン内戦のノンフィクションで知られるイギリス人歴史家が夫人の作家アーテミス・ク…

覚え書:「今週の本棚:池内紀・評 『私はホロコーストを見た 上・下』=ヤン・カルスキ著」、『毎日新聞』2012年09月09日(日)付。

- 今週の本棚:池内紀・評 『私はホロコーストを見た 上・下』=ヤン・カルスキ著 (白水社・各2940円) ◇世界に届かなかった「虐殺」真実の証言 ヤン・カルスキは本名ヤン・コジェレフスキ。一九一四年、ポーランド中部の工業都市ウッチの生まれ。大学で…

書評:玉居子精宏『大川周明 アジア独立の夢』平凡社新書、2012年。

大川が所長を務めた東亜経済調査局附属研究所(通称「大川塾」)。本書はその卒業生を取材し、戦前戦中昭和の東南アジアとの関わりを描き出す。理念と現実の格闘、善意と押し付けの間で揺れる人々の軌跡を活写する。吉野作造関係で(大川の学位取得に吉野は…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『帝国主義日本の対外戦略』=石井寛治・著」、『毎日新聞』2012年08月26日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『帝国主義日本の対外戦略』=石井寛治・著 (名古屋大学出版会・5880円) ◇経済人はなぜ満州事変を阻止できなかったのか 日本の真珠湾攻撃を知ったその日、南原繁は「人間の常識を超え学識を超えておこれり日本世界と戦ふ」…

覚え書:「今週の本棚:COVER DESIN 『広島、1945』」、『毎日新聞』2012年8月5日(日)付。

- 今週の本棚:COVER DESIN 『広島、1945』 (南々社、1890円) 1945年の広島の変貌を写真で描く『広島、1945』(南々社、1890円)。8月6日を挟んで、わずか一発の原子爆弾が街の姿を大きく変えてしまったさまを伝える。表紙は勤労動員先で…