大学論

「話さない」ことも、そして「いない」ということさえ表現かもしれない

- さて、「今朝、何、話したの?」と聞くと、子どもたちは、ほぼ決まって「えぇ、今朝、何話したっけ?」と呟く。私はこれだけでも、この授業(国語授業内での演劇教室のこと……引用者註)の意味があると考えている。話し言葉の教育とは、まずもって、自分の…

覚え書:「今週の本棚:古典を失った大学 近代性の危機と教養の行方=藤本夕衣・著」、『毎日新聞』2013年04月21日(日)付。

- 今週の本棚:古典を失った大学 近代性の危機と教養の行方 藤本夕衣・著 (NTT出版・3990円) かつては世間離れした場として容認されていた大学にも、「改革」の波が打ち寄せる。予算の効率配分、多様なニーズへの対応、キャリア教育等。東大でも、…

語る対象が最初からあるのではなくて、大勢の人がある現象に注目して、それについて語るようになる

- 一般論として、学が産に協力すること事態は頭から断罪はできない。世の中の財を産がつくっている以上、そこに学が貢献することは、巨視的には公共のためになるはずなのである。ただ、問題は貢献の仕方なのだ。私企業の短期的利益のためだけに、大学の教育…

「伝統というものは常に歴史的につじつまのあう過去と連続性を築こうとするものである」から、その馴化の薄皮を剥がしていく「ゆるふわ」な時間について

- 起源の捏造・伝統の創造 なぜ、女ことばの起源についての言説が発生し、このように価値づけされた女房詞や敬語が持ち出されたのでしょうか。それは、女ことばを「日本が古くから保ってきた伝統」と位置づけるためです。「伝統は創り出される」という視点を…

老人に用なし死ねといふかこの冬

- 老人に用なし死ねといふかこの冬 堀内竹嶺(『愛吟』一九四〇年四月号) 老人は足手まといになるだけでなんの役にも立たないというのが戦争である。同時に、子どもは邪魔扱いされるはずだが、百年戦争であるかぎり、やがて兵士になる彼らは大切な「人的資…

覚え書:「告発の真相:女子柔道暴力問題 山口香・JOC理事に聞く」、『毎日新聞』2013年02月10日(日)、02月11日(月)付。

- 女子柔道暴力問題:山口香・JOC理事に聞く/上 特定の選手、見せしめ 2013年02月10日 ◇対応鈍い全柔連…もともと彼らの中では軽い問題 柔道全日本女子の15人が告発した暴力、パワーハラスメント問題。選手から相談を受け、告発を後押しした柔道日本女子…

覚え書:「今週の本棚:気になる科学 元村有希子・著」、『毎日新聞』2013年02月10日(日)付。

- 今週の本棚:気になる科学 元村有希子著 (毎日新聞社・1575円) 毎日新聞社科学環境部といえば、思い出すのは日本の科学と科学者の現実を生々しく追って私たち科学者にはちょっと切なくもあった、『理系白書』である。その著者たる毎日新聞科学環境部…

書評:「山口周三『南原繁の生涯 信仰・思想・業績』(教文館)、『第三文明』2013年3月、96頁。

- 「現実的理想主義者」の実像を生き生きと伝える 近代日本の思想的系譜において、良心と良識を担うチャンピオンは内村鑑三と新渡戸稲造である。この二人の師から直接の薫陶を受けたのが本書の主人公・南原繁である。戦後初の東大総長として教育改革を指揮し…

「だから何なんだ」と問い続けること

- 「自分で考える」ということ そんな失意の中、七一年の春休みに帰省し、知人が持っていた一冊の本『自分で考えるということ』(澤瀉久敬著、角川文庫)のタイトルに惹かれた。一晩借りて読了した。「自分で考える」ことの手ほどきを手取り、足取りといって…

書評:小林ソーデルマン淳子・吉田右子・和気尚美『読書を支えるスウェーデンの公共図書館 文化・情報へのアクセスを保障する空間』新評論、2012年。

- あらゆる方法で図書館の魅力を子どもたちに示すことができるのは、小学校から中学校までの九年間にかぎられている。というのも、フィンスカテバリには高校がないため、高校に進学した子どもたちはべつのコミューンまで通学するようになるからである。 九年…

書評:「植木雅俊『思想としての法華経』(岩波書店)、『第三文明』2013年2月、95頁。

- 法華経の神髄をえぐりだし、研究史を画する一書 著者は、サンスクリット原典から『法華経』、『維摩経』の画期的な訳業を世に送り、その明晰(めきせき)な訳文と創意に富む訳注は仏教学に新たな息吹(いぶき)を吹き込んだことで知られる。 本書は、これ…

覚え書:「【書評】江戸の読書会 前田勉著」、『東京新聞』2012年12月16日(日)付。

- 【書評】江戸の読書会 前田 勉 著 ◆異見を認める自由な精神 [評者]姜 信子 作家。著書に『棄郷ノート』『うたのおくりもの』など。 明治維新から百五十年このかた、日本の近代のはじまりを告げた御一新にあやかって、なにかと維新を叫ぶ人々が繰り返し出…

覚え書:「みんなの広場 教養教育の大切さを考えよう」、『毎日新聞』2012年12月09日(日)付。

- みんなの広場 教養教育の大切さを考えよう 大学生 19(京都市上京区) 大学に入学してから発見したことがあります。一般教養科目のおもしろさと奥深さです。第一線で研究されている先生方の授業で、知的好奇心をくすぐられます。将来の損得勘定を抜きにし…

覚え書:「【書評】わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か 平田オリザ著」、『東京新聞』2012年11月25日(日)付。

- 【書評】わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か 平田 オリザ 著 ◆演劇使う授業の効用 [評者]土佐 有明 ライター。音楽・演劇・文芸などの分野で論評を執筆。 文科省のコミュニケーション教育推進にもかかわった演出家が、演技論、日本…

知識や経験の蓄積を通して行為をすること、そしてもうひとつは、蓄積することなく、生きるという行為のなかでつねに学んでゆくこと

- ……私たちが話しているのは二つの種類の学ぶことについてです。ひとつは知識や経験の蓄積を通して行為をすること、そしてもうひとつは、蓄積することなく、生きるという行為のなかでつねに学んでゆくことです。片方は技術的なことには絶対に必要なものです…

iPS細胞に関する「騒動」について

iPS細胞に関する「騒動」については、ほとんど論点が出てきたみたいだけれども、自分自身もそれについて、少しだけ言及しておこうと思う。まず、最初に渦中の氏自身がトンデモなことをやったことを「スキャンダル」として受容することには関心がない。私…

学んだことを忘れてゆくという経験。自分が経てきたさまざまな知や文化や信念の堆積に、忘却がほどこす予期しない手直しを自由におこなわせてゆくということ。

- ミシュレは、五一歳のとき、新たな人生(vita nuova)を始めた。新たな仕事、新たな恋愛を始めた。私は彼よりも年をとっている(この比較が親愛の情から出ていることはわかっていただけよう)が、私もまた今日、この新たな場所で、この新たな厚遇によって…

覚え書:「ひと 福岡教育大講師になった韓国人視覚障害者 韓星民さん」、『毎日新聞』2012年9月8日(土)付。

- ひと 福岡教育大講師になった韓国人視覚障害者 韓 星民(ハン スンミン)さん(41) 「視覚障害者教育の支援に役立つけんきゅうがしたい」。20年前の来日後、目に合うルーペとの出合いで生活が一変し、支援機器の重要性を実感した経験がそう語らせる。…

大学の建物の正面に掲げるべきは、《教育と研究のために》ではなく、《至高の教育としての研究のために》という標語であるべきでしょう。

- 第三の点、これを私はゲルマン的と名づけたいのですが、しかしこれについては、私はいくつかの激しい反駁にさらされなければなりませんでした。−−私は大学というものは他の教育施設とは根本的に異なったものであると考えています。大学の建物の正面に掲げ…

書評:J.S.ミル(竹内一誠訳)『大学教育について』岩波文庫、2011年。

- 人間が獲得しうる最高の知性は、単に一つの事柄のみを知るということではなくて、一つの事柄あるいは数種の事柄についての詳細な知識を多種の事柄についての一般的知識と結合させるところまで至ります。(中略)広範囲にわたるさまざまな主題についてその…

書評:リチャード・ホーフスタッター(田村哲夫訳)『アメリカの反知性主義』みすず書房、2003年。

アメリカの「正義」を根柢から支える「知性への敵視」という伝統リチャード・ホーフスタッター(田村哲夫訳)『アメリカの反知性主義』みすず書房、2003年。 本書の主題は、アメリカ合衆国が建国以来、広く社会に浸透している「反知性主義」。まず、建国と密…

「対象にまったく完全に注意をそそぐといった行為」について。

- 詩人は、真に実在するものにじっと注意をそそぐことによって、美を生み出す。人の愛するという行為も、同じである。今そこに、飢えかわいているその人がわたしと同じように真に存在するものだと知ること−−それだけで十分である。残りのことは自然につづい…

興味深い時代であるだけに、なんらかの革命を起こさなければなりません…残念ながら、ずばり的中する解決策は思いつきません。

- 今の時代は面白い。ただ、つまらない時などあるのでしょうか? ヨーロッパで一番退屈な場所はスイスです。ここの人に聞いても、スイスで政権についているのはどの政党か、誰が大統領か、誰もわかりません。完全に匿名であるかのようですが、ただただ機能し…

魂の場合は、無理に強いられた学習というものは、何ひとつ魂のなかに残りはしないからね

- 「ほかでもない」とぼくは言った、「自由な人間たるべき者は、およそいかなる学科を選ぶにあたっても、奴隷状態において学ぶというようなことは、あってはならないからだ。じじつ、これが身体の苦労なら、たとえ無理に強いられた苦労であっても、なんら身…

言語活動は立法権であり、言語はそれに由来する法典である。われわれは、言語のうちにある権力に気づかない。

- 私が権力的言説と呼ぶのは、言説を受け取る側の人間に誤ちがあるとし、したがって、罪があるとするような言説のすべてである。ある人々は、われわれ知識人があらゆる機会に「国家権力」に反対して行動することを期待している。しかし、われわれの真の戦い…

新入生へのちょっとしたアドバイス:「何かを教えてくれる」から「自分で問いを探究する」へ

新入生へのちょっとしたアドバイス 大学で授業をしていると「何か教えてくれる」という姿勢で参加される学生さんの姿をよくみかけます。その真剣な姿には、襟をただしたいと思いますし、その求めに全力に応じていかなければならないと私は思います。 しかし…

親切丁寧?に仕込まれる「管理教育」への一抹の寂しさ

- 学生が受け身であればあるほど、大学はガイダンスやオリエンテーションに熱心になる。入学式がすむと、つづいて数日ガイダンスが行われる。必修や選択の科目がどうなっているか。卒業までに、あるいは専門課程に進むためには、どういう科目をとらなければ…

哲学を学ぶ「私たち蝶々は非常に不確定で、大地の上に安全にすわって満足している人びとから見るとおそらくたいへん滑稽」ですがそこに学ぶ意義が存在する。

- 哲学的な生活態度の目標は、到達可能な、したがってまた完成されるような状態として定形的に表現されないものであります。私たちの状態は私たちの実存のたえざる努力やその断念の現象であるにすぎないのです。私たちの本質は「途上にあること」なのです。…

一般教養教育をうけた者とは、安直で好まれやすい解答に抵抗できる者のことである

- 一般教養教育とは、正確にいって、学生を助けてこの問い(=「高貴な熱望にかかわる問い、『人間とは何か』という最大の問題のこと……引用者註)を自分で立てられるようにすることを意味する。答えは明らかではないが、かといって見いだせないわけでもない…

覚え書:「キャンパス交友:入学前から 「ミクシィで知り合った」/大学が公式SNS開設」、『毎日新聞』2012年4月4日(水)付。

- キャンパス交友:入学前から 「ミクシィで知り合った」/大学が公式SNS開設 全国各地から学生が集まり、出会いに胸がときめく大学の入学式。最近は、ミクシィなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を通じ、入学前から友達を作る学生が…