2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

書評:成田龍一『近現代日本史と歴史学 書き替えられてきた過去』中公新書、2012年。

- 敗戦後に再出発した歴史学研究は、「社会経済史」をベースにしていました。それが、一九六〇年頃からは「民衆」の観点を強調するようになりました。これが第一の変化です。さらに一九八〇年頃に「社会史」が強く提唱されるようになります。これが第二の変…

書評:藤原辰史『ナチスのキッチン 「食べること」の環境史』水声社、2012年。

藤原辰史『ナチスのキッチン 「食べること」の環境史』水声社、読了。ナチス時代の台所を材料に、20世紀の社会構造を分析する大著。「私的な」「個人的な」作業場は、最新の技術や学問(家政学、栄養学、建築学)などを駆使することで、機能的かつ衛生的な…

覚え書:「記者の目:大震災と宗教者=平元英治」、『毎日新聞』2012年07月12日(木)付。

- 記者の目:大震災と宗教者=平元英治(RT編集部) 東日本大震災では多くの尊い命が失われ、生と死の苦悩は切実に被災者の身に迫った。宗教者も動いている。仏教僧やキリスト教の牧師たちが、悲嘆に暮れる被災者と向き合う「移動喫茶」をともに開き、「脱…

「人びとが無関心だ」と批判するが、無関心を許さない全体主義のことを思い出すと、無関心権はきわめて重要な権利だ

- 日本国憲法の副作用として、政治無関心があるといわれている。それはそのとおりかもしれない。大日本帝国憲法は、臣民が自分の意見を持つことは歓迎しなかったが、無関心も許さなかった。徴兵制だけではなく、隣組、大政翼賛会などにより、すべての臣民を…

覚え書:「今週の本棚:伊東光晴・評 『こんなにちがう ヨーロッパ各国気質』=片野優、須貝典子・著」、『毎日新聞』2012年07月08日(日)付。

- 今週の本棚:伊東光晴・評 『こんなにちがう ヨーロッパ各国気質』=片野優、須貝典子・著 (草思社・1680円) ◇北から南へ、誇り高く多様な文化を知る ヨーロッパ各国気質とあるが、ヨーロッパ旅行にも、この程度の知識がほしいと思える三十二カ国案内…

「僕みたいに白人で男で中産階級のアメリカ人学生は何も言う資格がないんじゃないでしょうか」とぼやくだけでなく

- 現在ニューヨークのコロンビア大学で教鞭をとるガヤトリ・スピヴァクは、その難解な文章もさることながら、教室でもきびしい姿勢で有名である。あるとき大学の教室で、ひとりの学生が「先生の言われるように、自分の出自を自覚したり、自分がどんな特権的…

覚え書:「今週の本棚:渡辺保・評 『カラー版 北斎』=大久保純一・著」、『毎日新聞』2012年07月08日(日)付。

- 今週の本棚:渡辺保・評 『カラー版 北斎』=大久保純一・著 (岩波新書・1050円) ◇眼前に彷彿と浮かび上がる浮世絵師の精神 北斎はかなり変わった人だったらしい。 曲亭馬琴と北斎は、「椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)」はじめ多くの読本でコン…

書評:原克『白物家電の神話 モダンライフの表象文化論』水声社、2012年。

ヒトと家電の生活史原克『白物家電の神話 モダンライフの表象文化論』水声社、2012年。電気と家電製品の普及で便利になった私たちの生活。しかし便利さと引き替えに、私たちの生活は「モダンライフ神話」へ惑溺することにもなってしまった。家電抜きの生活は…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『イワンの戦争?赤軍兵士の記録1939−45』=キャサリン・メリデール著」、『毎日新聞』2012年07月08日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『イワンの戦争?赤軍兵士の記録1939−45』=キャサリン・メリデール著 (白水社・4620円) ◇対独戦史料にソ連軍崩壊のさまを読む 戦争の全体像を俯瞰(ふかん)的に述べるのは難しく、それが第二次世界大戦であれば、な…

丸山眞男「シニシズム 政治学事典執筆項目」より、「シニシズムの両義性」について

- シニシズム (英)cynicism,cynism (独)Zynismus (仏)cynisme 原義は紀元前四世紀ごろのギリシアのキュニコス派 Kunikoi のとなえた教説および彼らの生活態度をさす言葉。語源は、(1)その派の創始者といわれるアンティステネス Antisthenes がキュ…

覚え書:「日中対話の努力 不可欠  廬溝橋事件75年 記念館副館長に聞く」、『毎日新聞』2012年7月8日(日)付。

- 日中対話の努力 不可欠 廬溝橋事件75年 記念館副館長に聞く【北京・工藤哲】日中戦争(1937〜45年)の発端となった廬溝橋事件から7日で75周年を迎えたのを受け、廬溝橋近くに建つ歴史展示施設「中国人民抗日戦争記念館」の李宗遠副館長(42)が7日…

個人の魂を、彼らの社会が変わるように変えていかなければならないが、他面においてその個人の魂が変わるためには、私は社会をも変えるように努めなければならない

- 一面において私は個人の魂を、彼らの社会が変わるように変えていかなければならないが、他面においてその個人の魂が変わるためには、私は社会をも変えるように努めなければならないのである。それゆえ私は失業やスラムや経済的不安等の問題にも関わらねば…

覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 危機に直面する持続可能性=湯浅誠」、『毎日新聞』2012年7月6日(金)付。

- くらしの明日 私の社会保障論 危機に直面する持続可能性 湯浅誠 反貧困ネットワーク事務局長増税の必要性、共有できるか 税と社会保障の一体改革関連法案は、民主、自民、公明の3党による修正合意が図られ、衆院で可決された。政府・民主党が法案成立に向…

書評:マシュー・スチュアート(桜井直文、朝倉友海訳)『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』書肆心水、2011年。

マシュー・スチュアート(桜井直文、朝倉友海訳)『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』書肆心水、2011年。「不気味に自足した賢者」と「究極のインサイダー」の邂逅。 廷臣ライプニッツは破門の異端者スピノザの思想の何を敬い…

覚え書:「学びや 中学・高校の先生による特別授業 哲学 斉藤慶典先生」、『毎日新聞』2012年7月2日(月)付。

- 学びや 中学・高校の先生による特別授業 哲学 斉藤慶典先生周りを見てみよう 「当たり前」って不思議 「えっ、それって何」「ふーん、どうして」と思うことがすでに哲学だという話を、全快した。いったいそのとき、そこで何が起こっているのだろうか。 君…

自分は旗印として平民主義を掲げるのではなく、平民主義を生きるのだ。頓智と諧謔で人間の平等を主張するのだ。

- 外骨も蘇峰のこの「平民主義」に強く共感している。「国民之友」が創刊された時に、すぐに買い求めてこれを貪るように読んだ。明治新政府ができて「四民平等」を唱えながらも、かつての「士農工商」の四つの階級は「皇族・華族・士族・平民」と形を変えて…

覚え書:「今週の本棚:松原隆一郎・評 『世界を救う処方箋』=ジェフリー・サックス著」、『毎日新聞』2012年07月01日(日)付。

- 今週の本棚:松原隆一郎・評 『世界を救う処方箋』=ジェフリー・サックス著 (早川書房・2415円) ◇危機に瀕(ひん)する米国経済の「自己診断」書 ギリシアの財政危機がスペインや欧州全般の金融危機に火をつけるのか、固唾(かたず)を飲んで注目す…

内村の「猛省」と「戦争廃止論」が、日本の国是となったのである

- 非戦論から再臨信仰へという内村の姿勢に、またもや対極の立場から反対したのは海老名弾正だった。彼は、再臨信仰そのものを否定していたばかりでなく、日本の大陸進出は神の国の拡張であるとの信念を抱いていたのである。 柏木は、再臨の信仰について海老…

覚え書:「今週の本棚:本村凌二・評 『師弟のまじわり』=ジョージ・スタイナー」、『毎日新聞』2012年07月01日(日)付。

- 今週の本棚:本村凌二・評 『師弟のまじわり』=ジョージ・スタイナー著 (岩波書店・3150円) ◇肉声ともなう教育の場の重みを噛みしめる 二十世紀の哲学者を一人だけあげなさい、と問われたら、多くの識者はM・ハイデガーと答えるのではないだろうか…

夏に 汝ら額に汗して

- 三九 夏に 汝ら額に汗して おのれのパンを食うべし、とか? かしこい医者の診断(みたて)では、 汗した際には何も食わないがよいという。 天狼星が目くばせする、何が不足と告げるのか? あの烈しい目くばせは何を求めているのやら? 汝ら額に汗して おの…

覚え書:「今週の本棚:堀江敏幸・評 『色へのことばをのこしたい』=伊原昭・著」、『毎日新聞』2012年07月01日(日)付。

- 今週の本棚:堀江敏幸・評 『色へのことばをのこしたい』=伊原昭・著 (笠間書院・2310円) ◇古典文学をときほぐす「色」への尽きぬ想い 先日、三十六年ぶりにトキが野生で孵化(ふか)し、無事に巣立った。これは絶滅危惧種を救うと同時に、朱鷺(と…

丸山眞男「内村鑑三と『非戦』の論理」についての覚え書

twitterのまとめですいません『丸山眞男集』第5巻(岩波書店)読了したので所収の『図書』(岩波書店、1953年4月号)に掲載れた「内村鑑三と『非戦』の論理」について覚え書き。「明治の思想史において最も劇的な場景の一つは、自由と民権と平和のわれ人と…

覚え書:「今週の本棚:持田叙子・評 『植物たちの私生活』=李承雨・著」、『毎日新聞』2012年07月01日(日)付。

- 今週の本棚:持田叙子・評 『植物たちの私生活』=李承雨・著 (藤原書店・2940円) ◇巨樹の下の「愛の原郷」に焦がれる物語 『旧約聖書』のはじまりに楽園があり、その樹(き)の下で愛しあった男女が追放されて人類の始祖となるように、大地に根づき…

混沌からひとつの秩序にむかうと考えるよりも、混沌−秩序−混沌と考えるほうが、私には世界の発展の姿としてうけいれやすい。

- はみだした部分を内心にもってこの社会を生きていると、政治について、ひとつの立場をとることがあっても、そしていったんひきうけたその立場から去らないとしても、自分と対立する立場のものをその存在する気分になれない。それなりの根拠を見出そうと思…

覚え書:「時代の風 人口問題と国力=ジャック・アタリ」、『毎日新聞』2012年7月1日(日)付。

- 時代の風 人口問題と国力=ジャック・アタリ 仏経済学者・思想家外国人争奪戦の時代に 世界の国々の人口と国力の間には、歴史上、直接的な関係は見いだせない。人口が多くても経済的には壊滅的な状況の国もあれば、人口は少ないが強大な国もある。18世紀末…

ぼくたちの目的は、決して白人をうちまかしたり侮辱したりすることではなく、彼らの友情と理解をかちとることでなくてはならない

- 闘争のなかで暴力を行使することは、非実際的であるばかりでなく非道徳的でもあるだろうという点を強調した。憎悪にむくいるには憎悪をもってすることは、いたずらに宇宙における悪の存在を強めるにすぎないだろう。憎悪は憎悪をうみ、暴力は暴力をうみ、…

覚え書:「つながる:ソーシャルメディアと記者 ネットと新聞の補完関係=高原克行」、『毎日新聞』2012年06月30日(土)付。

- つながる:ソーシャルメディアと記者 ネットと新聞の補完関係=高原克行 情報の拡散力に優れるソーシャルメディアと、情報の一覧・記録性に優れる新聞の融合。ネットと紙の補完関係の具体化。これが首都圏タブロイド紙「MAINICHI RT」のミッショ…

書評:安田浩一『ネットと愛国』(講談社)、『第三文明』2012年8月、第三文明社、92頁。

書評:安田浩一『ネットと愛国』(講談社)、『第三文明』2012年8月、第三文明社、92頁。 - 「憎悪に満ちた集団の闇をえぐる」 インターネットで排外的な言動を展開する「ネット右翼」と呼ばれる人々が結成した「市民保守団体」の一つが「在特会(在日特権…