ポスト・コロニアル
原田敬一『兵士はどこへ行った 軍用墓地と国民国家』有志舎、読了。国民を創造する国家は「死」を記念・管理せざるを得ない。本書は緻密な実証と丹念なフィールドワーク、そして国際比較のを通して、戦死者の追悼・慰霊・顕彰・記念を検証、著者の広範な取材…
- 黄禍論と日本人 飯倉章 著 2013年5月5日 [評者] 成田龍一 日本女子大教授。著書『近現代日本史と歴史学』など。 ◆風刺画を丹念に解読 「黄禍論」とは、白人たちが「黄色人種」の脅威を説くもので、ドイツ皇帝ヴィルヘルム二世−カイザーが十九世紀末に唱…
- 市民が共に統治する社会を ネグリ氏の民主主義観 選挙制度や議会のあり方を巡る議論が盛んだ。背景には、選挙で民意を政治に反映できるという強い信頼がある。そんな中、「現代の代表制は民主主義を実現しない」と主張するのがイタリアの政治哲学者アント…
- コモンウェルス 上・下 [著]アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート [評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学) [掲載]2013年02月24日■「所有」への呪縛、乗り越える概念 冷戦終結後の世界秩序の本質を〈帝国〉という概念で表し、世界的に注目される2人の最…
- 発言 朝鮮学校差別 再考が必要 田中宏 一橋大名誉教授(日本社会論) 2020年のオリンピック・パラリンピック開催地が9月に決まるため、東京都の猪瀬直樹知事は招致活動を本格化させている。そうした時に、都及び日本政府は朝鮮学校差別を続けていてい…
- 異論反論 戦争を子供たちに伝えるのは困難です 寄稿 城戸久枝当事者の声を聞かせたい この数年間、「戦争や中国残留孤児のことを伝えるために私に何ができるのか」をテーマに据えて活動してきた。講演などで家族の歴史を知るようにすすめると、「家族と向…
- アホウドリと「帝国」日本の拡大 南洋の島々への進出から侵略へ [著]平岡昭利 [評者]上丸洋一(本社編集委員) [掲載]2013年01月27日■南方進出の出発点を検証 「アホウドリ」で思い出すのは、史実に材をとった吉村昭の小説「漂流」だ。江戸時代後期、しけに…
- 火によって [著]ターハル・ベン=ジェッルーン [評者]いとうせいこう(作家・クリエーター)■今を生き、死ぬ者に捧げる物語 モロッコ出身にしてフランス語で書く作家、ターハル・ベン=ジェッルーンは11冊もの日本語訳を持つ、人気のある文学者だ。 夢幻的…
- 書評:『アホウドリと「帝国」日本の拡大』 平岡昭利著 評・星野博美(ノンフィクション作家・写真家) 明石書店 6000円 羽毛目当ての南進 南洋の絶海を優雅に舞う姿から、昔は信天翁、沖の太夫などと呼ばれた巨大な鳥、アホウドリ。 阿呆鳥、馬鹿鳥な…
- 韓国詩人・尹東柱の足跡解明へ 代表作舞台は高田馬場?戦時下・朝鮮語で詩作、逮捕 韓国の国民的詩人・尹東柱(ユン・ドンジュ 一九一七〜四五年)が、戦時下の日本で詩作した東京都内の下宿場所は、新宿区高田馬場とみられることが、民間研究者の調査で分…
- 幼いころ両親を亡くし親戚の家で育った夫と結婚したチャビーラおばさんは、舅や姑との関係に苦労しなかった代わりに、夫が親から受け継ぐ農地も住む家もなかった。マクドゥミアを家に建てるだけの小さな土地を買い、ボンベイで働く夫の帰りを待ちながら、…
- 私はバラモンで、バラモンとして生まれ、すなわち上層カーストとして生まれ、先に述べた通り、潜在的に暴力的な−−すべてのヒンドゥー教徒が暴力的なのではありませんが−−それでも自国内では、潜在的にあるいは実際に暴力的になりかねない多数派の一員です…
- 今週の本棚:白石詩集 青柳優子訳 (岩波書店・2205円) 一九一二年、平安北道定州(現・北朝鮮)に生まれ、日本の青山学院を卒業、戦前の朝鮮詩界で活躍した詩人、白石の主要作を収める。白石の詩集刊行は日本では初めて。 詩集『鹿』(一九三六)に…
- 今週の本棚:『「移民列島」ニッポン』=藤巻秀樹著 他文化共生社会に生きる (藤原書店・3150円) 日本に住む「移民」と正面から向き合ったルポルタージュである。「日本にホントに移民がいるのか」とぶかる向きに、彼らの苦悩や喜びの肉声を伝え、そ…
- ここで品格や尊厳(ディグニティー)について話したい。言うまでもなくこの観念は、歴史学でも、人類学でも、社会学でも、人文科学でも、およそすべての文化に特別な位置を与えられている。まっさきに指摘しておきたいのは、アラブ人でも、ヨーロッパ人や…
- ひと 「戦争柄の着物」を収集し、研究する 乾淑子さん(60) 軍艦旗や大砲の間を縫って「占領」の文字が躍る絣(かすり)、満州建国を伝える新聞記事を染めた羽織の裏地−−。戦争をモチーフにした柄の着物を収集・研究して12年。コレクションは500枚を…
本書は、大企業(市場主義)ヒンドゥー原理主義(ナショナリズム)が民主主義の名のもとに人々を抑圧するインドの苛烈な現状を告発するインド人作家の政治エッセイ集。そしてこの現実はインドだけでなく世界各地で現在進行形のことであると著者は指摘する。…
- 多数言語によるコミュニケーションの重要性 最後にもう一言申し上げたいと思います。 当時においても、現在においても、別の言語で学んだり話したりすることを学ぶために注がれるエネルギーの量には驚くべきものがあります。情報を伝え、効用を伝え、考え…
- 民主主義のあとに生き残るものは [著]アルンダティ・ロイ [評者]柄谷行人(評論家) [掲載]2012年10月28日■インドにおける恐るべき抑圧 本書は、インドにおける政府、大企業、財団、ヒンドゥー原理主義者による恐るべき抑圧を伝えるものである。たとえば、カ…
- メインストリーム 文化とメディアの世界戦争 [著]フレデリック・マルテル [評者]渡辺靖(慶応大学教授・文化人類学)■文化の向かう先、巨視的な視点で 低迷を続ける政治や経済を横目に、マンガ・アニメからファッション、料理まで、日本文化はこの10年で影…
- 頂点に位置したのは日本本土から来た日本人、中間に位置したのが沖縄人と朝鮮人、最底辺に位置したのが島民である。沖縄人と朝鮮人には島民よりも高い地位が与えられたが、彼らの職業や教育程度は、島民から見るとうさん臭い感じに映った。たとえば、多く…
- −−ちょうどこの話をしているのでお聞きします。現在、偏狭主義(パロキアリズム)を思わせるムードが爆発的に広がっていますか。イラク戦争後数ヵ月たって、大学ではどうですか。 合衆国のことですか。大学ではそれほどでもないです。でもだれもわれわれに…
大川が所長を務めた東亜経済調査局附属研究所(通称「大川塾」)。本書はその卒業生を取材し、戦前戦中昭和の東南アジアとの関わりを描き出す。理念と現実の格闘、善意と押し付けの間で揺れる人々の軌跡を活写する。吉野作造関係で(大川の学位取得に吉野は…
- とにかく迎合するまえに批判せよが、簡にして要を得た解答となる。知識人にはどんな場合にも、ふたつの選択肢しかない。すなわち、弱者の側、満足に代弁=表象(レプリゼント)されていない側、忘れ去られたり黙殺された側につくか、あるいは、大きな権力…
- 数少ない女子学生の前で、「女に学歴は必要ない」などと無神経に言ってのける在日朝鮮人男性群にうんざりし、当時一世を風靡したウーマン・リブの思想に心惹かれながらも、その頃の私はなぜか日本の女性たちに同一化することはできなかった。 多くの歳月が…
- さて、わが主題に話を戻すとして、自分の習慣にはないものを、野蛮と呼ぶならば別だけれど、わたしが聞いたところでは、新大陸の住民たちには、野蛮で、未開なところはなにもないように思う。どうも本当のところ、われわれは、自分たちが住んでいる国での…
- 今週の本棚:コロニアリズムと文化財=荒井信一著 (岩波新書・756円)帝国主義の時代、欧米列強や日本は他民族の土地を植民地として支配した。その影響は今日にも残っている。本書はそのことを文化財を通じてつまびらかにしている。 柱になるのは、日…
- 爆破直後には、市民がワーッと司令部の構内に逃げ込んできましたから、塔の前の広場がまたたくまに、被爆者で埋まってしまった。足の踏み場もないくらいだった。背中の皮なんかベローッとむけちゃった人なんかザラです。女の人は半裸体で、毛布かなんかで…
- 現在ニューヨークのコロンビア大学で教鞭をとるガヤトリ・スピヴァクは、その難解な文章もさることながら、教室でもきびしい姿勢で有名である。あるとき大学の教室で、ひとりの学生が「先生の言われるように、自分の出自を自覚したり、自分がどんな特権的…
デリダとイスラーム?……文明の根源は「多元性」の尊重、そして保障する「来るべき民主主義」の普遍主義を語る。書評:ムスタファ・シェリフ(小幡谷友二訳)『イスラームと西洋―ジャック・デリダとの出会い、対話』駿河台出版社、2007年。 「私は多元性が文…