他者論

覚え書:「書評:アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること [著]ネイサン・イングランダー [評者]小野正嗣」、『朝日新聞』2013年06月02日(日)付。

- アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること [著]ネイサン・イングランダー [評者]小野正嗣(作家・明治学院大学准教授) [掲載]2013年06月02日 [ジャンル]文芸 人文 ■生還者は「人間的」になったのか 艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉にす。だが…

誹謗は漠然とした人間嫌いから出た想定である

- 誹謗 CALOMNIE 誹謗は漠然とした人間嫌いから出た想定である。想像上の行為を対象とした誹謗は、嘘である。しかし、動機を対象とした誹謗は、人間嫌いそのものとちょうど同じ程度にほんとうらしい。誹謗は決して止まらない。それ自身で落ちて行く。そして…

書評:新井政美編著『イスラムと近代化 共和国トルコの苦闘』講談社、2013年。

新井政美編著『イスラムと近代化 共和国トルコの苦闘』講談社、読了。イスラムは「反近代的」か。イスラムと近代的価値観の対立・調和の実験場=トルコの近現代史を材料に、本書は、共和国トルコの「苦悶」の歩みから「近代化」「政教分離」「世俗化」の内在…

書評:小倉紀蔵『朱子学化する日本近代』藤原書店、2012年。

小倉紀蔵『朱子学化する日本近代』藤原書店、読了。儒教社会から脱皮(西洋化)することが近代日本の歩みであるとの通説を打破するのが本書の狙い。著者によれば「日本の近代化は半儒教的な徳川体制を脱皮し、社会を『再儒教化』する過程」であり、福沢諭吉…

覚え書:「書評:当事者研究の研究 石原孝二編」、『東京新聞』2013年03月17日(日)付。

- 当事者研究の研究 石原 孝二 編 2013年3月17日 ◆「自分語り」で取り戻す自分 [評者] 佐藤 幹夫 フリージャーナリスト。著書に『ハンディキャップ論』など。 べてるの家。障害当事者による自分語りなどのユニークな活動で、その名を全国に轟(とどろ)か…

覚え書:「書評:『アメリカ、ヘテロトピア 自然法と公共性』 宇野邦一著 評・宇野重規」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

- 『アメリカ、ヘテロトピア 自然法と公共性』 宇野邦一著評・宇野重規(政治学者・東京大教授) 根底にある混沌と葛藤 私たちは、本当にアメリカのことを知っているのだろうか。 なるほど、アメリカを語る言葉は無数にあり、一つひとつの説明はそれなりにも…

覚え書:「今週の本棚:加藤陽子・評 『記念碑に刻まれたドイツ』=松本彰・著」、『毎日新聞』2013年03月03日(日)付。

- 今週の本棚:加藤陽子・評 『記念碑に刻まれたドイツ』=松本彰・著毎日新聞 2013年03月03日 東京朝刊 (東京大学出版会・6720円) ◇民族の存亡をかけた歴史の変転を問い直す 葉かげから少しだけ陽(ひ)のさしている森をゆっくりと歩く人−−。本書を読…

覚え書:「悼む 病と闘いながら歌い続け=熊谷たみ子さん アイヌ民族のジャズ歌手」、『毎日新聞』2013年02月23日(土)付。

- 悼む 病と闘いながら歌い続け 熊谷たみ子さん アイヌ民族のジャズ歌手 大腸がんのため 1月2日死去・60歳1枚のCDが手元にある。東日本大震災後、被災者支援を目的に有志で自主制作した。タイトルは「大地よ」。 同じくアイヌ民族の宇梶静江さん(79…

書評:南原繁研究会編『平和か戦争か 南原繁の学問と思想』to be出版、2008年。

- 南原は、その生涯において一度だけバルトと出会っています。一九五二年にヨーロッパを回ったとき、ドイツでは歴史家フリードリヒ・マイネッケやヒトラーと闘ったバルトの盟友マルティン・ニーメラーなどと出会い、とても共感を覚えています。 「私がドイツ…

書評:内田樹『呪いの時代』新潮社、2011年。

相互の違いを踏まえた上で合意形成を目指す気などさらさらない…これが現在の言語空間の支配的体質ではないだろうか。相手を屈服させる為だけに捻出される無数の言葉はまるで「呪詛」のようである。本書は雑誌連載のエッセイを纏めた一冊だが、「呪い」を切り…

文化による単純な一般化は、人びとの考えを固定化するうえできわめて効果を発揮する

- 世界の人びとは−−おそらく必要以上に断固として−−文化は重要だという結論に達している。世界の人びとは明らかに正しい。文化はたしかに重要だ。しかし、本当に問われるべき問題は、「文化はどのように重要なのか?」なのである。前の二つの章で論じたよう…

覚え書:「書評:社会運動の戸惑い [著]山口智美・斉藤正美・荻上チキ [評者]中島岳志」、『朝日新聞』2012年12月16日(日)付。

- 社会運動の戸惑い [著]山口智美・斉藤正美・荻上チキ [評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)■フェミニズムと保守との対話 1990年代半ばに登場した「ジェンダーフリー」という言葉は、フェミニストによって政治化され、99…

覚え書:「【書評】わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か 平田オリザ著」、『東京新聞』2012年11月25日(日)付。

- 【書評】わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か 平田 オリザ 著 ◆演劇使う授業の効用 [評者]土佐 有明 ライター。音楽・演劇・文芸などの分野で論評を執筆。 文科省のコミュニケーション教育推進にもかかわった演出家が、演技論、日本…

覚え書:「書評:私とは何か―「個人」から「分人」へ [著]平野啓一郎 [評者]福岡伸一」、『朝日新聞』2012年11月18日(日)付。

- 私とは何か―「個人」から「分人」へ [著]平野啓一郎 [評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学) ■自分の中に自分はいない 学生時代、京都に住んだ時、興味深いことに気づかされた。東京では道路に囲まれた領域が町名・番地だったのに、京都では道を挟んで…

覚え書:「ナショナリズムを考える B・アンダーソンさんに聞く」、『朝日新聞』2012年11月13日(火)付。

- ナショナリズムを考える B・アンダーソンさんに聞く(ナショナリズム研究の第一人者) 「排外主義や人種差別は、ナショナリズムとは本来、別のものなのです」=米ニューヨーク州イサカ、増池宏子氏撮影ベネディクト・アンダーソンさん米コーネル大名誉教…

書評:斉藤環『世界が土曜の夜の夢なら  ヤンキーと精神分析』角川書店、2012年。

- 「気合」と「いきほひ」のあいだ ここまでヤンキーと古事記の関係にふれてきた以上、丸山眞男の言葉にも耳を傾けないわけにはいかない。それでは、丸山は何を言ったか。彼は古事記を徹底的に読み込んで、「つぎつぎになりゆくいきほひ」の歴史的オプティミ…

自分自身、「判断ができない」“真空地帯”ってヤツが、生活世界の中には存在するなあ

- 政治に情熱は必要だが距離をおくことが必要である。政治はきわめて厳粛〔重大〕な行動であるからむしろ生一本の情熱ではだめであるという paradox がある。 a sence of humour があるということは、観念に人間が使われず、人間が観念を使うために必要であ…

政治はそもそも絶対的に異なっている者を相対的な平等という点で組織するのであって、相対的に違っている者を組織するのとは区別されるのである。

- すべての人間は、お互いに絶対的に異なっているのであり、この差異は、民族、国民、人種という相対的な差異より大きなものである。その場合、神による《人間》の創造は、複数性のなかに含まれている。しかしながら、政治はこの点ではまるで何も関係ない。…

覚え書:「今週の本棚:昭和後期の家族問題=湯沢雍彦」、『毎日新聞』2012年10月21日(日)付。

- 今週の本棚:昭和後期の家族問題 湯沢雍彦 (ミネルヴァ書房・3675円)家族の姿が、戦後から昭和末期までどのように変わってきたかを経済、教育、文化などの側面から浮き彫りにする。データと資料は膨大だが、かみくだかれた文章でわかりやすい。市井…

覚え書:「みんなの広場 私は人間の良心を信じたい」、『毎日新聞』2012年10月5日(金)付。

- みんなの広場 私は人間の良心を信じたい 会社員58(兵庫県伊丹市) 最近の社会の関心事は「いじめと領土問題」ではないだろうか。まったく関連がなさそうな両者だが、根本は同じだと思う。解決のキーワードは「対話」だろう。人間は生まれなあらに慈悲と寛…

覚え書:「村上春樹さん寄稿 領土巡る熱狂『安酒の酔いに似てる』」、『朝日新聞』2012年9月28日(金)付。

- 村上春樹さん寄稿 領土巡る熱狂「安酒の酔いに似てる」 作家の村上春樹さん(63)が、東アジアの領土をめぐる問題について、文化交流に影響を及ぼすことを憂慮するエッセーを朝日新聞に寄せた。村上さんは「国境を越えて魂が行き来する道筋」を塞いでは…

南方は集合名詞として人々をとらえなかった。あらゆる職業の人々と、個人としてのつきあいを重んじた

- 第一に、「地域」または「地方」に対する双方の感覚の差である。 南方は、定住者の立場から、地域を見た。柳田は、農政学者として、農政役人として、そして旅人として地域を見た。南方は、地方にいて地方から中央を見、柳田は中央にいて中央から地方を見た…

時代の切断は私たちが「事件」をそれ以前から続く「生活」との連続性において捉え直す中で自ら作り出さないかぎり、生まれない。

- 被災者にとって、被災地は「生活」の場だが、それ以外の者にとって、被災地は「事件」の場だ。「事件」の現場と思って赴くと、そこには「生活」がある。あたりまえのことに不意に衝かれる感覚。阪神・淡路大震災という事件が、地下鉄サリン事件という新た…

「人々に差別されつつ、人々を差別し返すという性格を刻印された小社会」の複合汚染

- 近代の知識人はみな「官」を志した。「官」になるべきだと世間にも考えられていた。「官」たりえないものは政客をめざし、または学者になろうとした。それが普通の道だと信じられていたなか、明治二十年頃「官」たるの道を余儀なく、また意図してはずれ、…

強制こそ、人からの愛や尊敬を得られなくしてしまう手段だということに、そろそろ支配者たちは気づくべきです

- 問題の本質は何なのか −−そういう意味では、強制への異議中立には意味があると思いますか。 「予防訴訟の原告の中には、いろんな反対論の人がいますが、かつての侵略戦争の象徴だったからとか、キリスト者として受け入れられないというのは分かりやすい。…

「もしそこに怪物どもがいなかったなら、このさもしさはなかったろう」と……って怪物は私であり貴方であること。

- ところで、倫理的な断罪のある一定の形体において、否定するという逃避的なやりかたがある。要するに、こう言うのだ。もしそこに怪物どもがいなかったなら、このさもしさはなかったろう、と。この荒っぽい判断においては、怪物どもは可能性から切除されて…

「絶対だな!」という病

世の中に「絶対大丈夫」ということは、論理的には存在し得ないはずですが、流通している現状としてはだいたいの場合において結果としては「絶対」だったと機能する事例はよくあります。

むしろ自分の国の強さと、臣民に浸透した国家意識の威力への自信の強さとに基づいて「寛容」は発令されてたらしめるということ。

- われわれは誰でも、われわれがそのもとで生きているシステムを受け入れている。そのことをかつてすでにマックス・ヴェーバーが、ロマン主義的イデオロギーやゲオルゲグループの秘教と対決する際に力説していた。しかしこのシステムの絶対的支配はもはや、…

「現実の具体的な歴史を、あなたたちは、あなたたちの頭のなかにしかない歴史発展の大法則に置き換えているのだ」と言ってやりましたよ

- マルクス主義者やネオ=マルクス主義者が歴史を知らないと言って私を非難したとき、私は彼らにこう答えたのです−−「歴史を知らないのは、あるいは歴史から眼をそむけているのはあなたたちだ」、とね。「現実の具体的な歴史を、あなたたちは、あなたたちの…

私たちを救い、力づけてくれたピエール神父の思い出

- ポワリエ 大戦中はなにをなさっていたのですか? レヴィナス 私は非常に早い時期に捕虜になりました。一九三九年より何年か前に私は軍事通訳の試験に受かっていたので、ロシア語とドイツ語の通訳として動員されました。そしてレンヌで退却中の第一〇軍団と…