書評
仲正昌樹さんの『精神論ぬきの保守主義』新潮選書をちょうど読み終えた。保守とは字義の通り「古くからあるもの」を“守る”思想的系譜のことだが単純にあの頃は良かったと同義ではない。本書は近代西洋思想におけるの伝統を振り返りながら、現下の誤解的認識…
岩下明裕編『領土という病 国境ナショナリズムへの処方箋』北海道大学出版会、読了。領土問題は全て政治的に「構築(construct)」された産物であり、ひとは常に「領土の罠」に穽っている。本書はボーダースタディーズの立場から「領土という病」の治療を目…
- 書評 『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』 南原繁研究会編 EDITEX 定価2,000円+税南原繁に学ぶ「現実」を「理念」に近づける営み 先哲の思索に学ぶとは一体どういうことだろうか。それは無批判にありがたく御輿(みこし)を担ぐことでもな…
- 書評 植木雅俊・著 仏教学者 中村元 求道のことばと思想前田耕作多角的な思想の全軌跡活動的な生涯とその開かれた視線をあますところなく活写 1979年12月末、ブレジネフはソ連軍のアフガニスタン侵攻を許可する書類に署名した。『広辞苑』(第3版・…
- 読書 アダム・スミスとその時代 ニコラス・フィリップソン・著 永井大輔・訳近代経済学の父の生涯と思想 近代経済学の父=アダム・スミスの最新の評伝である。その生涯と思想をバランスよく叙述する本書は、大部の著作ながら一気に読み通すことができる。 …
ニコラス・フィリップソン『アダム・スミスとその時代』白水社、読了。本書は近代経済学の父、アダム・スミスの最新の浩瀚な評伝。「社交的でありながら孤独を好む、一方ならず風変わりな人物として同時代人に知られ、尊敬と共に愛着の念も抱かせるような男…
ベネディクト・アンダーソン(加藤剛訳)『ヤシガラ椀の外へ』NTT出版、読了。『想像の共同体』の著者が、その地域研究の軌跡を振り返りながら、学問とは何か縦横に論じた一冊。抜群に面白い。学問で重要なのは、大学の制度や母国といった「ヤシガラ椀」…
南原繁研究会編『南原繁と国際政治 永久平和を求めて』エディテックス、読了。昨年11月同研究会第10回シンポジウムの記録。講演を三谷太一郎先生「南原繁と国際政治 学問的立場と現実的立場」、パネル・ディスカッション「南原繁と国際問題をめぐって」…
トリン・T・ミンハ『ここのなかの何処かへ 移住・難民・境界的出来事』平凡社、読了。ポストコロニアリズムとフェミニズムの代表的映像作家・思想家の手による20年ぶりの評論集。グローバリズムの歓声はその理念と裏腹に領域を分断しつつあるのがその実情…
- 書評 『アジア主義 その先の近代へ』 中島岳志著 潮出版社 定価1900円+税「思想としてのアジア主義」の可能性 アジア主義とは国家を超えたアジアの連帯を模索する戦前日本の思想的営みと実践のことだが、日本思想史においては、これほど罵倒にみまれ…
増井元『辞書の仕事』岩波新書、読了。本書は辞書編纂に30年以上係わった著者が、その内幕を丁寧につまびらかにする一冊。非常に面白かった。辞書は「引く」ものなのか「読む」ものなのか。おそらくその両方なのだろう。辞書づくりの「黒子」に徹した著者…
中澤篤史『運動部活動の戦後と現在 なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』青弓社、読了。レクリエーション(英国)ともプロフェッショナリズム(米国)とも違う日本の部活動。ほぼ全ての学校が運動部を設置し「7割以上の中学生と5割以上の高校生」…
ボリス・シリュルニク(林昌宏訳)『憎むのでもなく、許すのでもなく ユダヤ人一斉検挙の夜』吉田書店、読了。6歳の時、占領下のフランスでナチに逮捕されたが、逃亡し、後に苦労して精神科医となった著者が自らの人生から導き出した教訓が本書の邦題だ。こ…
ブルース・ローレンス(池内恵訳)『コーラン』ポプラ社。イスラームの聖典は一人のアラブ商人が受けた啓示から始まり、長い年月を経て人々に広がり、解釈され強大な信仰となった。その成り立ちと変遷を辿る本書は初学者の最初の一冊に相応しい。巻末に塩野…
- 政治学とは、いま存在する秩序の存在根拠を疑い、ここにはない別の世の中の姿を構想してきた学問である。政治学には、多くの学者や思想家が政治を観察した中から考え出した様々な概念や枠組みが蓄積されている。それを理解し、同時代の政治を見る際に当て…
進藤久美子『市川房枝と「大東亜戦争」 フェミニストは戦争をどう生きたか』法政大学出版局、読了。戦後の政治家としての評価とは裏腹に戦前・戦中の軌跡を評価するのが難しい市川房枝。一次資料にあたりながら、礼賛でも弾劾でもない抑制のとれた筆致でその…
金山泰志『明治期日本における民衆の中国観』芙蓉書房出版、読了。知識人の中国観研究は数多く存在するが民衆のそれは皆無。本書はその嚆矢。「日本社会一般で漠然と共有されていた中国観=一般民衆の中国観」に着目し「教科書・雑誌・地方新聞・公団・演劇…
- ところで、勤め人として人のために仕事をし、文学者として自由に創造する、この理想を追求した人物は滝太郎いがいにいない。人格に裏打ちされた書き手であり、そのよさは、二足の草鞋にあったと思えてならない。一つは大いなる義務、一つは純粋な憧憬。私…
ガート・ビースタ(上野正道、藤井佳世、中村(新井)清二訳)『民主主義を学習する 教育・生涯学習・シティズンシップ』勁草書房、読了。「民主主義の学習とは、政治における主体化である。学校や社会でいかに民主主義を学んでいくのか、理論的・歴史的・政策…
- 言葉が多すぎる というより 言葉らしきものが多すぎる というより言葉と思えるほどのものが無いこの不毛 この荒野 賑々しきなかの亡国のきざし さびしいなあ うるさいなあ 顔ひんまがる −−茨木のり子「賑々しきなかの」、谷川俊太郎編『茨木のり子詩集』岩…
- 読書 人間にとって善とは何か フィリッパ・フット著 高橋久一郎 監訳 河田健太郎・立花幸司・壁谷彰慶訳全人性の理解促す思索が光る 学問のあり方が見直された20世紀、最も批判を受けたのは哲学だ。諸学の王の特権性は反省されるべきだが、根源的な探究態…
尾佐竹猛『大津事件 ロシア皇太子大津遭難』岩波文庫、読了。明治24年、来遊中のロシア皇太子が警備の巡査津田三蔵に襲撃された大津事件。皇族扱いの審理をせよと強要から司法権の独立を守る歴史的事件へと展開するが、本書はその全貌を豊富な資料を駆使し…
N・アジミ、M・ワッセルマン(小泉直子訳)『ベアテ・シロタと日本国憲法 父と娘の物語』岩波ブックレット、読了。日本国憲法に男女平等の原理を書き込んだベアテの父は日本に西洋音楽を伝えた世界的なピアニスト。知られざる父レオの生涯へ光を当てること…
松田美佐『うわさとは何か ネットで変容する「最も古いメディア』中公新書、読了。「根も葉もない」とも「火のないところに煙は立たぬ」と両義性をもって扱われるのがうわさ。対極の受容ながらどこか今ひとつわかりにくい。本書は古典的研究を踏まえた上で「…
内田樹・中島岳志・平松邦夫・イケダハヤト・小田嶋隆・高木新平・平松克美『脱グローバル論』講談社、読了。平松前大阪市長主催の公共政策ラボでの連続シンポジウムの記録。グローバリスト=ナショナリスト・イデオロギーにどう対抗するのか。「日本の未来…
本田由紀『社会を結びなおす 教育・仕事・家族の連携へ』岩波ブックレット、読了。行き詰まり混迷を深める現代日本。その淵源をどう理解すればよいのか。本書は戦後日本に誕生した社会システムを教育・仕事・家族が一方向にリンクした「戦後日本型循環モデル…
本村凌二『愛欲のローマ史 変貌する社会の底流』講談社学術文庫、読了。ローマ帝国繁栄下、過剰ともいえる欲望と淫靡な乱交が横行したが、その背景にはローマ人のどのような心性が潜んでいたのか。本書は風刺詩人のまなざしを頼りにしながら、性愛と家族をめ…
「解説」が鶴見俊輔さんの手によるものだから、橋川文三『昭和維新試論』講談社学術文庫、読み始めたが、のっけから(序)、吉野作造の「深み」示すエピソードに言及があり驚愕(鶴見さんの「解説」でも大きく紙面を割いている。解説部分↓ - 大正一〇年(一…
今野真二『日本語の考古学』岩波新書、読了。印刷書物や電子データになじむと、「源氏物語の作者は?」と問われれば「紫式部」という常識に拘束される。しかし、写し手や時代が変わればがわりと変わるから、考古学的にアプローチする他ない。僅かな痕跡から…
半田滋『日本は戦争をするのか 集団的自衛権と自衛隊』岩波新書、読了。安倍首相が悲願と掲げる集団的自衛権。武器輸出が解禁されNSC設置、秘密保護法制定など、その勢いは留まることを知らない。本書はその虚偽を一つ一つ丁寧に論駁する待望の一冊。人命…