「人間とは何か」

覚え書:言語を使ってものを考えることができるということ、それが絶望の淵にあってもわたしたちを救う(多和田葉子さんの「ハンナ・アーレント」)

多和田葉子さんの『言葉と歩く日記』(岩波新書)を読みましたが、非常に素晴らしい一冊です。「外国語を勉強しながら外国語の文法書を不思議がり、面白がり、笑う、という遊びを意識的に実行している人はあまりいない」−−。日独二カ国語で書くエクソフォニ…

書評:前田朗編『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか 差別、暴力、脅迫、迫害』三一書房、2013年。

前田朗編『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか 差別、暴力、脅迫、迫害』三一書房、読了。「憎悪言論」と訳されるように言論・表現の自由のうちで理解されがちだが、果たしてそうなのか。 本書は最良の「ヘイト・スピーチを克服する思想を鍛えるためのガイド…

病院日記:生産性・合理性を規準にした時間とは対極の時間の「流れ」

今週で精神科勤務、2週間目をクリア。なんとなく仕事のペースをつかみ、やっと看護師さんや入院している方の名前も覚え、あちらさんからも「氏家さん」と呼んでもらえるようになったのだけど、ほんと、神経内科と違ってじっくり丁寧に仕事ができる。そして…

病院日記:「主婦の仕事」という観点

- これは、産業社会で財とサーヴィスの生産を必然的に補足するものとして要求する労働である。この種の支払われない労役は生活の自立と自存に寄与するものではない。まったく逆に、それは賃労働とともに、生活の自立と自存を奪いとるものである。賃労働を補…

書評:角田由紀子『性と法律 変わったこと、変えたいこと』岩波新書、2013年。

角田由紀子『性と法律』岩波新書、読了。法律における女性差別の是正は筆者らの永年の努力で「1ミリ1ミリ」変わってきたが、問題は山積している。何が「変わったこと、変えたいこと」(副題)なのか。本書はその歴史と最前線を丁寧に概観する。 男女平等を…

病院日記:ゆっくりと静かに時間が経過する精神科(閉鎖病棟)

twのまとめに少々手をいれたものですが、いちおう、「病院日記」として残しておきます。4/1付で、看護助手の業務、神経内科から精神科(閉鎖病棟)へ移動しました。その初日の印象です。OJT無しのいきなり独り勤務なので「お客さん」状態だとは思う…

病院日記:自分の外に出るというのは、他なるものを配慮するということ

- レヴィナス 私の本(引用者注−−『実存から実存者へ』のこと)が言おうとしたのは、存在は重苦しい、ということです。 ポワリエ それは無に対する不安ではないのですか。 レヴィナス それは無に対する不安ではありません。実在の《在る》に対する恐怖なので…

書評:山田晶『アウグスティヌス講話』講談社学術文庫、1995年。

山田晶『アウグスティヌス講話』講談社学術文庫、1995年、読了。筆者が北白川教会でアウグスティヌスについて「打解けた気分」で縦横に語った六話をまとめた一冊。1、アウグスティヌスと女性、2、煉獄と地獄、3、ペルソナとペルソナ性、4、創造と悪、5…

覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 交際隠す文化の不幸=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年03月05日(水)付。

- くらしの明日 私の社会保障論 交際隠す文化の不幸 ペアが苦手な日本人 山田昌弘 中央大教授 ソチ五輪が終わり、ようやく寝不足から解放された人も多いに違いない。フィギュアスケートでは日本勢が大活躍。羽生結弦選手が金メダル、女子もメダルは逃したも…

書評:柳博雄『私もパーキンソン病患者です。』三五館、2013年。

柳博雄『私もパーキンソン病患者です。』三五館、2013年、読了。著者は新聞記者を定年後、病に倒れた。闘病生活は5年目を迎える。本書は自身の闘病の中で「高齢障害者医療や介護保険制度の行く末」(副題)を綴った一冊だ。矛盾と問題の指摘は実に精確であ…

覚え書:「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

- 引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理] 愛の関係 破綻すると 憎しみがパワーアップ 鹿島茂 憎しみは、対象との関係においては愛より古い。ナルシシズム的な自我が、刺激を与える外界に対して示す原初的な拒否から、憎しみは発生する。対象によって喚…

覚え書:「『反知性主義』への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論」、『朝日新聞』2014年02月19日(水)付。

- 「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論 2014年2月19日 「反知性主義」という言葉を使った評論が論壇で目につく。「非」知性でも「無」知でもなく「反」知性――。政治的な問題発言が続出する現状を分析・批判しようとする意図が見える。■自分に…

日記:中山成彬大先生と片山さつき大先生の「狂気」扇動

- 「アンネの日記」やその関連図書のページが大量に破られるという被害が昨年から今年にかけ、東京都内の公立図書館で相次いでいる。被害は少なくとも250冊以上になるとみられ、範囲も23区だけでなく市部にも及ぶ。 「アンネの日記」は第二次世界大戦中にオ…

日記:コロンビア大学コアカリキュラム研究会(2) アリストテレス『ニコマコス倫理学』

- かくしていま、およそわれわれの行うところのすべてを蔽うごとき目的−−われわれはこれをそれ自身のゆえに願望し、その他のものを願望するもこのもののゆえであり、したがってわれわれがいかなるものを選ぶのも結局はこれ以外のものを目的とするのではない…

書評:エルンスト・ヴァイス(瀬野文教訳)『目撃者』草思社、2013年。

- エルンスト・ヴァイス(瀬野文教訳)『目撃者』草思社、2013年、読了。日本ではなじみが薄いが20世紀ドイツ文学に最重要の位置を占めるヴァイス、待望の邦訳。モラビア出身のユダヤ人精神科医にしてカフカの友人は、ナチズム勃興期の市民生活の息吹を「…

日記:人間を「無効化」しようとする仮象にすぎないマモンへの永続的な抵抗

- 貧困で、無智で、社会情勢に暗い日本の農夫が田畑から引き離され、仏教の本義を教えられることはなく、偶像に犠牲を強いられることを教えられている。一方、ロシアのツーラ地方もしくはニジニ・ノブゴロド地方の貧困で無教養な人々が、キリスト教の本義は…

書評:立木康介『露出せよ、と現代文明は言う 「心の闇」の喪失と精神分析』河出書房新社、2013年。

立木康介『露出せよ、と現代文明は言う 「心の闇」の喪失と精神分析』河出書房新社、読了。全てを晒そうとする欲望と内面の露出が人間を突き動かしている。現代文明の特徴とは「露出」ではないか−−挑発的な現代批評だが肯きながら読んだ。躍起になってベール…

書評:ロバート・イーグルストン(田尻芳樹、太田晋訳)『ホロコーストとポストモダン 歴史・文学・哲学はどう応答したか』みすず書房、2013年。

ロバート・イーグルストン『ホロコーストとポストモダン 歴史・文学・哲学はどう応答したか』みすず書房、読了。アドルノを引くまでもなくホロコーストは歴史・文学・哲学」を一変させた。その証言やテクストと論争、それをどのように「読む」のか。本書は、…

日記:智慧とは「人間をして、瞬間による支配から離脱せしめるもの」

- 智慧というもののもつ最も重要な要素は、それこそが、人間をして、瞬間による支配から離脱せしめるものだ、ということである。それ故に、智慧は、時代に適うものではないのである。智慧の意図することは、人間をあらゆる運命の打撃に対して直ちに確乎たる…

覚え書:「書評:池田晶子 不滅の哲学 若松英輔著」、『聖教新聞』2014年01月08日(水)付。

- 池田晶子 不滅の哲学 若松英輔著「言葉」は自身を絶望から救う 「苦難や危機に際して人が本当に必要とするものは、必ず言葉であって、金や物ではあり得ない」(池田晶子)。著者は、池田晶子が残した言葉を手掛かりに「言葉」と哲学とを考えていく。 「言…

日記:応答することの可能性として生みだされる私

- 語りにおいて私は〈他者〉からの問いかけにさらされ、応答することを迫られ−−現在の鋭い切り先によって−−私は、応答することの可能性〔責任〕として生みだされる。責任あるもの〔応答しうるもの〕として、私は自分の最終的な実存に連れ戻される。こうした…

覚え書:「Listening:<特定秘密保護法に言いたい>「待ち」ではなく積極関与を 想田和弘さん」、『毎日新聞』2013年12月11日(水)付。

- Listening:<特定秘密保護法に言いたい>「待ち」ではなく積極関与を 想田和弘さん 2013年12月11日 ◇想田和弘さん(43) 民主主義は国民一人一人に権力があるが、選挙で選んだ政権に間接的に預けることで機能する。預けた権力は絶大で刃物を持…

日記:夜のなかを歩みとおすときに助けになるものは橋でも翼でもなく、友の足音だ

特定秘密保護法が参議院で可決されたようですね。 ベンヤミンの言葉を書簡から紹介させていただきます。 - ヘルベルト・ペルモーレあて [一九一六年末] ヘルベルト君、 きみが手紙をくれたことはとても嬉しかった。 でもきみの手紙は事物を即物的に伝えて…

日記:言葉を探している

特定秘密保護法案をはじめ、現在の政府のやろうとしていることには、納得がいかないし、反対の立場を表明していますが、ただいろいろと考えることがある。現実に信念として安倍晋三首相を支持する勢力というのは、ネトウヨを加えてもそんなに多いとは思われ…

日記:特定秘密保護法案に反対する学者の会

……この法律が成立すれば、市民の知る権利は大幅に制限され、国会の国政調査権が制約され、取材・報道の自由、表現・出版の自由、学問の自由など、基本的人権が著しく侵害される危険があります。特定秘密保護法案に反対の立場ですので、学者の会の趣旨と声明…

覚え書:「引用句辞典 トレンド編 ソーシャルメディアが生み出す監視社会=鹿島茂」、『毎日新聞』2013年11月23日(土)付。

- 引用句辞典 トレンド編 ソーシャルメディアが生み出す相互監視社会 鹿島茂[ルサンチマン] 世間は、大部分の人間は自分の内部から私心や利己心の臭気が立昇る事を極度に恐れてゐる。それを他人に嗅ぎ附けられる事を何よりも恐れてゐる。 (中略)彼等は吐…

書評:前田朗『増補新版 ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す』三一書房、2013年。

- 歴史を振り返れば、スターリンの大粛正、日本軍の三光政策・無人区政策、東京大空襲、ヒロシマ・ナガサキ、朝鮮戦争における国連軍の犯罪、ベトナム戦争・北爆。枯葉剤作戦、カンボジアのポルポト派による大虐殺、旧ユーゴスラヴィアの「民族浄化」、ルワ…

覚え書:「みんなの広場 歴史知ってほしい」、『毎日新聞』2013年11月23日(土)付。

- みんなの広場 歴史知ってほしい 大学生 21(東京都豊島区) 「特別永住って何ですか?」。その日、友人とのお酒の席を終え、帰路に就いた。駅を出た所に立つ巡査2人に身分証の提示を求められた。童顔の私が未成年に見えたのだろう。 「出身は?」「韓国で…

日記:「今読んでいるんです」とはなかなか言えず「今読み返しているのですが」……

(twのまとめですが……)先週の続きで、今日も文学について少々お話をしました。『カラマーゾフの兄弟』における「人類」の議論から、社会実践としてのスピヴァクの可能性へ示唆を飛ばし、世界文学を読むケーススタディとしてゲーテを参照しました。我ながら…

書評:ジョセフ・ヒース(瀧澤弘和訳)『ルールに従う 社会科学の規範理論序説』NTT出版、2013年。

ジョセフ・ヒース『ルールに従う 社会科学の規範理論序説』NTT出版、読了。テーマはずばり「なぜ人は、利己的に振舞うのではなく規範・制度・道徳に従って行動し、そのような社会を維持できるのか」ということ。本書は哲学の古典的テーマを経済学から進化生…