哲学・倫理学(現代)

覚え書:わたしたちは、いい人だと言われただけで安心していられない

- SNさんがドイツに行く決心をした時、ドイツ人は日本人よりもっとひどいから行くな」と言って家族は猛反対したそうだ。隣にすわっていたドイツ人の夫が笑いながらうなずいている。「韓国では日本人の悪口をいつも聞いていたが、ドイツに来てから出会った…

書評:野家啓一『科学の解釈学』講談社学術文庫、2013年。

野家啓一『科学の解釈学』講談社学術文庫、読了。科学は果たして万能か。信仰にも似た科学へ信頼は諸学の隷属化すら招いている。本書は、その対極の反科学主義を排しながら、「科学を御神体として後生大事に抱え込む哲学的傾向に見られるこうした『俗悪さ』…

覚え書:言語を使ってものを考えることができるということ、それが絶望の淵にあってもわたしたちを救う(多和田葉子さんの「ハンナ・アーレント」)

多和田葉子さんの『言葉と歩く日記』(岩波新書)を読みましたが、非常に素晴らしい一冊です。「外国語を勉強しながら外国語の文法書を不思議がり、面白がり、笑う、という遊びを意識的に実行している人はあまりいない」−−。日独二カ国語で書くエクソフォニ…

書評:野田又夫『哲学の三つの伝統 他十二篇』岩波文庫、2013年。

野田又夫『哲学の三つの伝統 他十二篇』岩波文庫、読了。枢軸時代のギリシア、インド、中国で同時に誕生したのが哲学。著者はこの3つの伝統に注目し、哲学の大胆な世界史的通覧を試みる。哲学とは「理性をもって自由に答えよう」とする「世界と人生とについ…

書評:権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波新書、2013年。

権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波新書、読了。保守的な国民国家思想家像からロールズのリベラリスト評に至るまで様々な顔をもつヘーゲル。本書は、影響史の視点から俗評をかき分け、ヘーゲルが生きた生活世界と時代との応答まで降り、その思想を公正に解…

覚え書:言説としての差別放置識人

差別放置知識人 ヘイト・スピーチ規制の必要性が指摘される中、憲法学の多数説は「表現の自由だからヘイト・スピーチを処罰できない」としています。 たとえば、長谷部恭男(東京大学教授)の『憲法・第五版』(新世社、2011年)は、表現の自由の優越的…

覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 進取の精神と柔軟さを=湯浅誠」、『毎日新聞』2014年04月16日(水)付。

- くらしの明日 私の社会保障論 進取の精神と柔軟さを 人財開発の必須事項湯浅誠 社会活動家 4月から法政大学の教授に就任した。所属は現代福祉学部。 法政大は「自由と進歩」、現代福祉学部は「Well-Being(健康で幸せな暮らし)の実現」を理念に掲げる。…

病院日記:生産性・合理性を規準にした時間とは対極の時間の「流れ」

今週で精神科勤務、2週間目をクリア。なんとなく仕事のペースをつかみ、やっと看護師さんや入院している方の名前も覚え、あちらさんからも「氏家さん」と呼んでもらえるようになったのだけど、ほんと、神経内科と違ってじっくり丁寧に仕事ができる。そして…

覚え書:「論点 リーダーの『ことば』」、『毎日新聞』2014年04月04日(金)付。

- 論点 リーダーの「ことば」 政治家やNHK会長らの失言が相次ぎ、謝罪・撤回する姿が目立っている。リーダーが発信を誤ると、その組織の信頼はもちろん国益も失いかねない。新年度を機に、リーダーに求められる「ことば」を考える。波紋呼んだリーダーの…

病院日記:自分の外に出るというのは、他なるものを配慮するということ

- レヴィナス 私の本(引用者注−−『実存から実存者へ』のこと)が言おうとしたのは、存在は重苦しい、ということです。 ポワリエ それは無に対する不安ではないのですか。 レヴィナス それは無に対する不安ではありません。実在の《在る》に対する恐怖なので…

書評:ヴォルフガング・シュヴェントカー(野口雅弘、鈴木直、細井保、木村裕之訳)『マックス・ウェーバーの日本 受容史の研究1905‐1995』みすず書房、2013年。

W・シュヴェントカー(野口雅弘、鈴木直、細井保、木村裕之訳)『マックス・ウェーバーの日本 受容史の研究1905‐1995』みすず書房、2013年、読了。出版部数の2/3はドイツではなく日本で売れた!大正時代から現代まで−−本書は日本のウェーバー研究とその受容…

覚え書:「引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理]=鹿島茂」、『毎日新聞』2014年02月22日(土)付。

- 引用句辞典 トレンド編 [ストーカーの心理] 愛の関係 破綻すると 憎しみがパワーアップ 鹿島茂 憎しみは、対象との関係においては愛より古い。ナルシシズム的な自我が、刺激を与える外界に対して示す原初的な拒否から、憎しみは発生する。対象によって喚…

覚え書:「『反知性主義』への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論」、『朝日新聞』2014年02月19日(水)付。

- 「反知性主義」への警鐘 相次ぐ政治的問題発言で議論 2014年2月19日 「反知性主義」という言葉を使った評論が論壇で目につく。「非」知性でも「無」知でもなく「反」知性――。政治的な問題発言が続出する現状を分析・批判しようとする意図が見える。■自分に…

日記:悪徳商法としての二人の閣下

大雪でてんやわんやの東京ですから、大雪に限らず、あらゆる防災に対する備えは必要だと思います。しかし、「震災は天罰」よろしく、「20XX年 東京直下型地震発生」と危機を煽り、不安につけ込み紛いモノを売りつけるような手法とはいかがなモノでしょう…

日記:歴史はまた、起源をおごそかに祭りあげるのを笑うことを教えてくれる

- 歴史はまた、起源をおごそかに祭りあげるのを笑うことを教えてくれる。起源をもちあげること、それは「万物の始めには最も貴重な、最も本質的なものが存在するという考え方のうちに再生する形而上学のひこばえ」なのである。ものはそもそもの始めにはその…

日記:民本主義のアクチュアリティ

- すなわち、大逆事件以来、「我国でアナーキズムと云へば直ちに飛んでもない大それた事を計画する反逆人のやうに思ひ做さるるを常とする」が、そういう「破壊の為に破壊を事とする」ような「消極的アナーキズム」以来に「積極的アナーキズム」といえるもの…

覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 医療現場にも忍び寄る影=本田宏」、『毎日新聞』2014年01月15日(水)付。

- くらしの明日 私の社会保障論 医療現場にも忍び寄る影 秘密保護法とインフォームドコンセント 本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐 今年は私にとって還暦に当たる年だが、今回ほど沈鬱な気分で正月を迎えたのは初めてだ。昨年12月に国内各層からの幅広…

書評:ロバート・イーグルストン(田尻芳樹、太田晋訳)『ホロコーストとポストモダン 歴史・文学・哲学はどう応答したか』みすず書房、2013年。

ロバート・イーグルストン『ホロコーストとポストモダン 歴史・文学・哲学はどう応答したか』みすず書房、読了。アドルノを引くまでもなくホロコーストは歴史・文学・哲学」を一変させた。その証言やテクストと論争、それをどのように「読む」のか。本書は、…

日記:としての意味

- 「あるものは他のもののために」という表現における「ために」〔代わりに〕は、ある語られたことと他の語られたこととの、ある主題化されたものと他の主題化されたものとの係わりに還元されるものではありません。さもなければ、としての意味の次元にとど…

日記:智慧とは「人間をして、瞬間による支配から離脱せしめるもの」

- 智慧というもののもつ最も重要な要素は、それこそが、人間をして、瞬間による支配から離脱せしめるものだ、ということである。それ故に、智慧は、時代に適うものではないのである。智慧の意図することは、人間をあらゆる運命の打撃に対して直ちに確乎たる…

覚え書:「書評:池田晶子 不滅の哲学 若松英輔著」、『聖教新聞』2014年01月08日(水)付。

- 池田晶子 不滅の哲学 若松英輔著「言葉」は自身を絶望から救う 「苦難や危機に際して人が本当に必要とするものは、必ず言葉であって、金や物ではあり得ない」(池田晶子)。著者は、池田晶子が残した言葉を手掛かりに「言葉」と哲学とを考えていく。 「言…

書評:「國分功一郎著『来るべき民主主義』(幻冬舎)」、『第三文明』2014年2月、69頁。

- 書評『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』國分功一郎・著幻冬舎新書・819円民主主義を引き寄せよう! 「参加する社会」の構想 本書は、哲学者の著者が、小平市都道328号線の反対運動に加わったことをきっかけにして「現在の民…

日記:「一つの民族を愛したことはないわ.ユダヤ人を愛せと? 私が愛すのは友人.それが唯一の愛情よ」(ハンナ・アーレント) 映画『ハンナ・アーレント』印象録

- ●クルトの家 アーレントを迎えるリフカ. アーレント 「リフカ,なぜ黙ってたの?」 リフカ 「クルトが“言うな”と」 看護師についてクルトの寝室に入るアーレント. クルトのアライ息づかいが聞こえている. 眠っているクルトの傍らに座り、クルトの手に触…

日記:応答することの可能性として生みだされる私

- 語りにおいて私は〈他者〉からの問いかけにさらされ、応答することを迫られ−−現在の鋭い切り先によって−−私は、応答することの可能性〔責任〕として生みだされる。責任あるもの〔応答しうるもの〕として、私は自分の最終的な実存に連れ戻される。こうした…

日記:無人による支配

- 官僚制とはすなわち、一者でもなければ最優秀者でもなく、また少数者でもなければ多数者でもなく、だれもがそこでは責任を負うことのできない官庁の匿名のシステムであり、無人による支配とでも呼ぶのが適切であるようなものである。 −−ハンナ・アーレント…

書評:三谷太一郎『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会、2013年。

- 政治学教育は単なる専門性、または単なる一般性をもつものではない。専門性を媒介とする一般性、または一般性を媒介とする専門性をもつのであって、それが政治学教育の総合性でえある。したがって大学院における政治教育はスペシャリストというよりも、む…

日記:「今読んでいるんです」とはなかなか言えず「今読み返しているのですが」……

(twのまとめですが……)先週の続きで、今日も文学について少々お話をしました。『カラマーゾフの兄弟』における「人類」の議論から、社会実践としてのスピヴァクの可能性へ示唆を飛ばし、世界文学を読むケーススタディとしてゲーテを参照しました。我ながら…

書評:國分功一郎『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の課題』幻冬舎新書、2013年。

國分功一郎『来るべき民主主義』幻冬舎、読了。本書は「現在の民主主義を見直し、これからの新しい民主主義について考える」試み。副題の通り(「小平市都道328号線と近代政治哲学の課題」)、小平市都道328号線の是非を巡る住民運動に筆者が携わるな…

書評:ジョセフ・ヒース(瀧澤弘和訳)『ルールに従う 社会科学の規範理論序説』NTT出版、2013年。

ジョセフ・ヒース『ルールに従う 社会科学の規範理論序説』NTT出版、読了。テーマはずばり「なぜ人は、利己的に振舞うのではなく規範・制度・道徳に従って行動し、そのような社会を維持できるのか」ということ。本書は哲学の古典的テーマを経済学から進化生…

書評:神島裕子『マーサ・ヌスバウム 人間性涵養の哲学』中央公論新社、2013年。

神島裕子『マーサ・ヌスバウム 人間性涵養の哲学』中公選書、読了。アリストテレス研究からスタートし、貧困や女性などへの差別へ視野を広げた気鋭の哲学者ヌスバウム。本書は彼女の半生と思想(ケイパビリティ・アプローチ/政治哲学/フェミニズム/新しい…